松沢呉一のビバノン・ライフ

「低照度飲食店」ってナニ? 「特定遊興飲食店」ってナニ?(松沢呉一) [シリーズ 風営法改正案を読む」 -3,068文字-

風営法という法律の仕組みをおさらい

 

vivanon_sentence前回、前々回についてFacebookのコメントを見ていて気づいたのですが、風営法がどういう内容になっているのか理解していない人たちが少なくないのかも。たしかに細かすぎてすべてを正確に理解するのは困難ですけど、関連条文だけでも一度目を通した方がいいと思います。じゃないと、今回の改正の問題点も理解できないと思いますので。

風営法改正論議において、正確な理解をもとに議論が起きなかったことに対して忸怩たる思いがあるわけですが、それをまたここで繰り返すのはまずい。3時間もかければだいたい理解できると思いますので、よろしくお願いしたい。

大別すると、風営法の対象となる営業は大きくふたつあって、ひとつは「風俗営業」。前回出した現行法の1号から8号まで、改正案では1号から5号まで。もうひとつは「性風俗関連特殊営業」。ソープランド、ファツションヘルス、ストリップ劇場、ラブホ、個室ビデオ、デリヘル、出会い系サイトといった性風俗産業です。

風営法の対象には風俗と性風俗があり、今回改正されるのは前者の風俗営業ジャンルであり、性風俗は関係なし。ここからして理解していない人たちがいそうです。

もともと風俗という言葉は「風俗習慣」といったように住宅、装飾、服装、髪型、身の回りの道具といった生活文化全般を意味し、風営法の風俗営業も広い意味の言葉です。犯罪の分類として「風俗犯」という用語があり、もっぱら博打や売買春を指し、それら享楽性のある営業を取り締まるのが風営法です。別物のように思えるキャバレーとダンスをするクラブとパチンコ屋が風俗営業としてまとめられ、さらには性風俗と同居しているのは享楽性というワードで考えると、そんなにおかしなことではありません。

ダンス営業がなぜ規制されるようになったのかについて私が書いたことがひとつのきっかけになって誤解を生んだのだと思うのですが、風営法が売春を取り締まる法律だとする人たちがいます。だから、クラブを規制するのはおかしいと。しかし、売春を取り締まるのは売防法であり、風営法は、売春とは何の関係もないパチンコ店や麻雀屋が対象になっているように、もっと幅の広い法律です。また、後年、「少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため」と法の目的に加えられており、「クラブで売春はしていない」といくら言っても無駄です。

踊ってはいけない国、日本 ---風営法問題と過剰規制される社会風営法の歴史的経緯は『踊ってはいけない国、日本』に詳細に書いていますので、参照してください。

この風俗営業と性風俗営業以外に、風営法で届け出が定められているのが深夜酒類提供飲食店営業です。主食に類する食事を提供している居酒屋、小料理屋、ファミレスなどは届けなしで深夜にアルコールを出してもいいのですが、それ以外で、深夜までやっているバーやパブの類はこの届けが必要です。

これは風営法で定められてはいますが、風俗営業ではありません。実のところ、風営法には一般的な飲食店をも規制している条文が入っていて、風俗営業、性風俗営業だけを範囲としているわけではありません。

最低限、この辺を理解しておいていただいて、次に進みます。

クラブは低照度飲食店営業になるのか? ライブハウスは?

 

vivanon_sentence風営法改正案の内容についてはすでにあちこちに報道されていて、クラブがどうなるのかについてここでは詳しくは繰り返さないですが、一部誤解が生じている点があるので、先に説明をしておきます。照度の問題です。

今まではダンスで規制してきたクラブを新たに照度で規制するのではなく、ダンスを要件とした号が消えることによって、クラブは他のあらゆる飲食店と同様に、現行5号営業、改正後は2号営業の規定に自動的にひっかかるってことです。

以下は改正後の2号営業。

喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く。)

10ルクスは映画館で映画を上映していない時に客電がついた明るさとされています。パンフの文字が読める明るさです。

最新風営適正化法ハンドブック 全訂第3版 現行法では「客席における」だったのが、改正案では「営業所内の」なっています(下に出てくるように、ここは改善されるとの話もあり)。もしこのまま営業所内すべての照度を10ルクス以下と規定すると、多くのクラプは低照度営業となり、引き続き、風俗営業としての規制を受け、夜は12時または1時までの営業となります。それがいやなら店内を明るくするか。

風営法改正を求める中で、「私たちはただ踊りたいだけなのに」「ダンスは文化だ」といった意見がよく出ていましたが、「だったら、明るくてもいいよね」ってことになります。そもそも、ただ踊りたいだけだったら公園で踊ればいい。

本当のところは、照明が明るくなったり暗くなったりするような環境で、金を払って酒を飲みながら踊る場を求めているわけです。そこに享楽性が存在していますし、営業というものが成立しています。だから、風営法の対象になる。

その場限りの適当なことを言っていたがために、こういう時はその言質をとられて、「だったら、明るくていいべ」と言われてしまうので、いい加減なことは言わない方がいいです。

私はその享楽性を認めた上で、なおかつそれで商売をする人たちがいるのも当然のこととして、一定の規制はやむを得ないとしつつ、過剰な規制はすべきではないと考えていることはすでに書いた通りです。

現実問題、このままではクラブは引き続き深夜は営業できなくなる。ライブハウスも同様。営業所内で10ルクス以上を維持しなければならないのであれば、客電を落とせません。ライブ前や後、バンドの入れ替わりの時間もつねにステージは10ルクス以上。そんなことはあり得ないわけです。

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