松沢呉一のビバノン・ライフ

ライブハウスもスポーツバーもカラオケパブも摘発されるのか!?(松沢呉一) [シリーズ 風営法改正案を読む」 -3,465文字-

今後もダンスによって風営法の規制を受け続ける仕組み

 

vivanon_sentence今回の改正案は「低照度を営業所内のどこに適用するのか」「風営法施行規則で床面積がどうなるのか」の不確定要素を残しつつ、おおむねクラブにとっては、現行法よりはいい内容になろうかと思います。

しかし、深夜までやるとなれば、特定遊興飲食店営業の許可が必要になります。

改正案の以下の部分がその定義。

この法律において「特定遊興飲食店営業」とは、ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る。)で、午前六時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く。)をいう。

 

「許可をとればいいんじゃろ」ということですけど、条例によって、特定遊興飲食店営業の許可がとれない地域が出てきた場合、客は朝までやっている店に流れるでしょう。移転すればいいわけですが、その金がないとなれば、対抗するために無許可で営業するクラブが出てくるかもしれない。当然、摘発されます。

これはしゃあない。今まで違法ながら、やってこられたのがラッキーってことであって、全店が生き残れるようにするなんてことは土台無理です。それが嫌なクラブは、今から地方議員にかけあって、店のある地域で特定遊興飲食店営業ができるように話をするしかない。

では、特定遊興飲食店営業はどういう基準で決定するのでしょうか。クラブは何をもってここに入るのか。

「遊興+飲食+深夜」が特定遊興飲食店営業です。では、「遊興させる」というのはどういう営業を指すのか。

警察庁による「風営法解釈運用基準」にこうあります。

3 深夜遊興の禁止
(1)「遊興をさせる」とは、文字どおり遊び興じさせることであるが、法第32条第1項第2号により規制対象となるのは、営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせる場合である。
(2)具体的には、次に掲げる行為が「客に遊興させること」に当たる。
①不特定多数の客に歌、ダンス、ショウ、演芸、映画その他の興行等を見せる行為
②生バンドの演奏等を客に聴かせる行為
③のど自慢大会等客の参加する遊戯、ゲーム、競技等を行わせる行為
(3)カラオケの使用等については、スポットライト、ステージ、ビデオモニター、譜面台等の舞台装置を設けて不特定の客に使用させる行為、不特定の客に歌うことを勧奨する行為、不特定の客の歌をほめはやす行為等が「客に遊興をさせること」に当たるが、不特定の客が自分から歌うことを要望した場合に、マイクや歌詞カードを手渡し、又はカラオケ装置を作動させる行為等はこれに当たらない。

これは、風営法の三十二条に、深夜の飲食店営業では「深夜において客に遊興をさせないこと」と定めがあることについて解説したものですが(詳しくはのちほど出てきます)、特定遊興飲食店営業もこれに準ずることになりましょう。

クラブもダンスをする場所を提供し、積極的に踊らせ、時に生演奏もしますから(DJは生演奏か否かは議論があるとしても)、深夜まで営業すれば特定遊興飲食店営業になります。つまり、表面上、風営法の条文から「ダンス」の文字が消えただけのことで、また、風俗営業ではなくなっただけのことで、引き続き、ダンスによって風営法の規制を受けることには変わりがないわけです。

今回の改正はクラブ以外の深夜営業に大きなダメージになる

 

vivanon_sentence深夜の営業をしなければ許可は必要がない。ここが今までとは決定的に違います。クラブを学校の近くに作っても問題はないし、高校生が出入りしても問題はない。深夜営業をしなければ普通の飲食店ですので。もちろん、未成年者に酒を売ることは許されないなど、飲食店一般の制限は受けるとして。

しかし、深夜の営業をしないでいいのであれば、現行法のまま、3号の許可をとればよかったのですから、改正する意味がない。

これまでは「ダンス」という要件が、それ自体で風俗営業を成立させたのに対して、改正案では「ダンス」は遊興営業の要件となり、その遊興営業は、深夜酒類提供飲食店から、特定遊興営業飲食店になる要件になった。ここがわかりにくいですけど、現実問題として、クラブにとっては、現行法のまま、3号を朝までできるようにしたのとさして変わりがないのです。

「ダンスができない国はおかしい」「どうやってダンスを定義するのか」「こんな国は恥ずかしい」という批判は引き続き残るわけですから、今回の改正以降も「踊れない国」であり続けます。今も改正後もダンスが禁止されているのではなくて、ダンスをさせる営業に規制が加わっているだけですから、ダンスができないわけでも、踊れない国でもないし、酒で規制をしている国と比較しても意味はなく、ダンスで規制していたところで恥ずかしくはないんですけど、ダンス営業が規制されることをこう表現するのであれば、今後も同じってことです。

それでもクラブ業界にとって、今回の改正は望ましい方向ですから納得できるとして、特定遊興飲食店営業という新しいジャンルを作り出したことによって、ちょっと困ったことが起きます。他の業界にとって影響が大きすぎるのです。悪い意味での影響です。

風営法解釈運用基準によると、ダンスだけじゃなく、「ショウ、演芸、映画、その他の興行」や「生バンドの演奏を客に聴かせる行為」「のど自慢大会等客の参加する遊戯、ゲーム、競技等を客に行わせる行為」が遊興になります。深夜酒類提供飲食店の届けで、これらをやっている店は多数ありますね。

ダンスは今までも3号営業だったのですから、今まで通り踊らせないようにすればいいだけとしても、深夜まで営業しているライブハウスも特定遊興飲食店営業の許可をとらないと無許可営業になります。

カラオケパブの類では、ステージがあり、スポットライトやミラーボールがあって深夜まで営業しています。あるいは、スポーツバーでは深夜に海外でのサッカーの中継を流し、客が大騒ぎをしています。ビデオを上映している飲み屋もあります。ロフトプラスワンのような店でも、ショーや演芸に類することを朝までやっています。

この「興行」は興行場法の「興行」に準ずると思われて、講演、対談、座談会等は含まれませんので、芸人がネタではなく、ただのしゃべりをやる分にはおそらくひっかからないと思います。

特定遊興営業飲食店が新設されて無許可営業になる店が続出

 

vivanon_sentence上にあったように、今までも深夜酒類提供営業ではこれら遊興営業は許されていませんでした。

以下の条文。

第三十二条  深夜において飲食店営業を営む者は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。
一  営業所の構造及び設備を、国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持すること。
二  深夜において客に遊興をさせないこと。

しかし、実質黙認されてきたと言っていいでしょう。それが今後は黙認されない可能性が高い。なぜこうなるのかと言えば、特定遊興飲食店営業は許可制だからです。

 

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