「味覚のわからない子どもたち」を誤った方向に誘導する研究者とNHK (松沢呉一) -4,064文字-
日本の子どもに異変が起きている?
半月ほど経ってしまいましたが、まずはこれをお読みください。
「甘み」や「苦み」などの味覚について、およそ350人の子どもを対象に東京医科歯科大学の研究グループが調べたところ、基本となる4つの味覚のいずれかを認識できなかった子どもが全体の30%余りを占めたことが分かりました。
研究グループは味覚の低下は食生活の乱れや生活習慣病につながるおそれがあるとして、子どもたちの味覚を育てることが必要だと話しています。調査を行ったのは、東京医科歯科大学の植野正之准教授の研究グループです。
研究グループは、おととし、埼玉県内の小学1年生から中学3年生までの349人を対象に「甘み」や「苦み」など基本となる4つの味覚を認識できるかどうか調査を行いました。
その結果、「酸味」を認識できなかった子どもは全体の21%で、「塩味」は14%、「甘味」と「苦み」については6%の子どもが分からないと答えました。
また、いずれかの味覚を認識できなかった子どもは107人と全体の31%を占めました。
研究グループによりますと、味覚を認識できなかった子どもはジュースを毎日飲んでいたり、野菜の摂取が少なかったりしたほか、ファストフードなどの加工食品を好む傾向も見られたということです。調査を行った東京医科歯科大学の植野准教授は、原因ははっきりしないものの味の濃いものを好むことが味覚の低下につながっている可能性もあるとしたうえで、「味覚が認識できなくなるとさらに味の濃い食品を好んだり食事の量が増えたりするため、食生活の乱れや生活習慣病につながるおそれがある。子どものたちの味覚を育てることが必要だ」と話しています。
日本の子どもに異変が起きている。一大事でございましょう。
しかし、「味覚がわからない」という表現が意味する内容がわからない。それがわからないと、子どもに何が起きているのかもわからない。
大きくみっつの可能性があります。
1)子どもらはそれぞれの味を違うものとして受け取っているが、言語的に区別ができていない。
2)それぞれの味を受け取っているが、同じものとして知覚されている。
3)その味覚自体が最初から知覚されていない。
このみっつは別物です。1は純粋に言語的な問題。2は味覚として区別できていない問題。3は知覚できない問題。
1はもっぱら知識や訓練の問題。2と3は味蕾なり神経なり脳なりの異常の可能性があります。
色で言えば、1は、うぐいす色と緑を区別できるのに、言葉を知らないために、どちらも緑と済ませてしまう問題。2はうぐいす色と緑色がまったく同じ色として知覚される問題。3はうぐいす色が欠落している問題。
うぐいす色という言葉を知ることで、緑の中からうぐいす色を独自に区別できるようになりますから、1は教育や訓練によって解決可能です。
そこがわからないと、何が起きているのかわからず、対処の方法もわからないのですが、この記事からは詳細を読み取れない。読み取れないながら、この報道では「味覚の低下」という言い方をしていることから、2か3が起きているかのように扱われていますし、Facebookでも、そう受け取っている人たちがいました。
この記事の元になったのがNHKのこの番組のようで、もう少し詳しいことが説明されています。
もっともっと詳しいことを知りたいのですけど、これ以上のものがネットには見当たらないので、以下、この番組を元にこの問題を考えていきます。
子どもたちは美味しさを感じる能力が劣っているわけではない
「賢人くんは、しょっぱい味を苦いと感じていました」とあるように、賢人君は「しょっぱい」と「苦い」の区別がつかないだけで、しょっぱさ自体は感じられています。賢人君については3の可能性は消えました。
学校の中で味覚を教える授業を受けた子どもが「しょっぱいと酸っぱいと甘いが全部重なり合っていた」と言っているように、やはり「区別がされていない」ってことのようです。
知覚していながら、それぞれの味を認知して区別することができない。それが学習によって変わってくるようですから、これは身体的、生理的な問題ではないと見ていいでしょう。たんに言語的な区別がなされていないだけではないか。言語的に区別されないと、味も区別されない。答えは1のように思えます。
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