松沢呉一のビバノン・ライフ

ヨーロッパのコマーシャルはどうしてエロなのか-ろくでなし子再逮捕 [9] -(松沢呉一) -3,675文字-

不寛容な人々と不寛容な法律が支配する社会が到来する-ろくでなし子再逮捕 [8]」の続きです。

 

 

「警察は女だから逮捕したのではなく、わいせつだから逮捕した」から始めるべし

 

vivanon_sentence前回の逮捕以降のろくでなし子の発言が大いに警察を刺激したであろうことは想像に難くない。警察のプライドはズタズタ。このことが二度目の逮捕につながった 可能性はあります。

なんとしても事件化したい警察は、性風俗店に冷淡な世論、「芸術・文学」の領域には 甘く、「エロ・わいせつ」には厳しい世論を読み込んで、容疑を拡大して逮捕に踏み切ったものと推測でき、性表現・性風俗を否定してきた人たちこそが警察の不当な動きを支えたことを見据えるべし。

すでに書いたように、女性器を再現した石膏の立体で罰金の判決を受けた人がいます。そちらは不当ではなく、ろくでなし子は不当だという言い分は成立しにくい。表現者の性別で区分するように法律はできていませんので。しかし、まったく成立する余地がないわけでもない。これについてはのちのち論じていこうと思ってますが、今のところ、それを現行法で可能だとする論を見たことがありません。実際、裁判所が受け入れそうな論理なんてほとんどないんだと思うのですけど、裁判所がどうあれ、擁護する論くらい提出していいはず。

静岡の人は赤字で販売していたそうです。金儲けのためではない。「表現だ、芸術だ」と本人は言わないとしても、これは立派な表現行為です。対して、ろくでなし子は自分の活動のために金を受け取り、店の宣伝のために展示をしていました。それが芸術なのだとしても、同時に営利であったとみなせます。営利か非営利かは、わいせつ か否かの判定基準にはならないですが、悪質か否かの判断材料にはされてしまいましょう。

露骨な金儲けのためであっても、それらは許されるべきだと私は思っています。そういうものだとわかっている人たちにしか販売、展示をしていないわけですから、とくにこの社会の秩序を乱すものではないでしょう。欧米諸国は社会の性秩序が乱れてますかね。それらの国でポルノが解禁されて半世紀近くも経っているのですよ。

性表現の刑事規制―アメリカ合衆国における規制の歴史的考察 (大阪市立大学法学叢書)それを許さないのが、今回のようなわいせつ物頒布、わいせつ物陳列に適用される刑法175条です。警察はそれに反したと判断したから逮捕しました。この法律を維持してしまったこの国の帰結として両方とも摘発されたのであって、「女だから」だの、「安倍政権を批判したから」だの、いい加減なことを言ってんじゃねえよ。じゃあ、昨年捕まった静岡の男は本当は女なのでしょうか。彼は安倍政権を批判していたのですか? こういうことを言っている人たちは、ここまで刑法175条と闘ってきた人たちに謝れ。

展開次第では、舞台になった「ラブ ピース クラブ」に捜査が及ぶ可能性もありました。今もあります。それも不当。しかし、この不当さも、性風俗産業全体がこれまで長らく受けたものでしかありません。いつでも警察が踏み込める状態を作り出してきて、事実、多数の人たちが逮捕され続けてきました。風俗嬢たちも逮捕されています。私の知人の女子大生風俗嬢も風営法違反の幇助で逮捕されて、自殺未遂を起こしています。働いていただけなのに(正確には違法営業に当たる内容を知った上で働いていたわけですけど、それを知って働いていただけ)。

これは警察の意思だけではなく、この社会が作り出してきたものです。自覚しましょう。

 

 

「海外」を利用して表現を規制したがる人々の詐術

 

vivanon_sentence今回の逮捕も前回の逮捕も不当です。それは刑法175条が不当だからです。わいせつだからって犯罪とする法律がおかしい(これ以降書いていくように、私は 「取り締まられていいわいせつも存在する」という考えですが、限定された場、限定された対象に性器もしくはその複製が陳列されたり、データが頒布されたりすることが取り締まるべきわいせつとはとても思えない)。

では、どうしたらいいのか。答えは簡単です。今回のような逮捕をさせない最善の方法は刑法175条をなくすことです。それだけのこと。あとはゾーニングをすればいい。しかし、それに反対する勢力がいるから困るわけですよ。

この国では一度できた法律はなかなか変わらない。とりわけ性にまつわる表現、営業に関する法律は変わりにくい。悪い方に変わることはあっても。クラブ業界が動いて風営法が改正されること自体画期的ではあっても、性風俗業界が動いても法改正はなされない。なぜならメディアも世論も政治家も味方にならないからです。

それどころか、「海外では日本の性風俗が野放しになっていることが問題にされている」だのと、どこの海外なのかもわからん話を根拠にして表現や産業を潰そうとする勢力が存在し、そういう勢力をメディアはバックアップしがちです。こういった批判は多くの場合デタラメです。

私もヨーロッパや米国から来ている人たちに「日本ではコンビニでもポルノを販売している」と驚かれたことはありますが、そういう人たちは同時にいまだにポルノで性器を出せないことにも呆れるわけです。この両者は不可分の関係にあります。ゾーニングによって見たい人の権利、表現したい人の権利を確保しているそれらの国の人たちにとって、日本は「表現の自由が侵害されて、性器にモザイクが入れられている一方で、コンビニでポルノがあるのはどういうわけか」という話。「性器を隠すのは不自然」と、むしろそちらの方に違和感を抱く人の方が多いと思います。

あたかもそれらの国々では、日本より厳しく性表現が規制されているかのように言い募る人々は欧米のエロ本やエロ映画、エロサイトを観たことがないんですかね。見たくない人には見えないようにされている効果が出ているわけですが、であるなら、刑法175条をなくして、ゾーニングを取り入れましょうよ。

 

 

「海外」ではテレビコマーシャルでもセックスが溢れている

 

vivanon_sentenceそれにしたって、ヨーロッパに行けば、あるいは行かなくても、あっちではテレビでも性の表現が溢れていることに気づくはずですけどね。気づきたくないんでしょう。

本当はもろ出しを見せるといいんですけど、そうは行かないので、テレビコマーシャルをいくつか見てみましょう。

 

 

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