松沢呉一のビバノン・ライフ

ろくでなし子再逮捕 -警察の狙いはなにか? (松沢呉一) -2,917文字-

 

ろくでなし子再逮捕の狙い

 

vivanon_sentenceまさかの展開です。

 

 

ろくでなし子・北原みのり容疑者逮捕 わいせつ物陳列か
2014年12月3日19時58分

女性器をかたどった作品を陳列したとして、警視庁は3日、漫画家五十嵐恵(42)=東京都世田谷区、ペンネーム・ろくでなし子=とアダルトショップ経営渡辺みのり(44)=東京都文京区、ペンネーム・北原みのり=の両容疑者をわいせつ物陳列の疑いで逮捕し、発表した。五十嵐容疑者は「陳列したものはわいせつ物には当たらない」と否認し、渡辺容疑者は黙秘しているという。
五十嵐容疑者は自身の女性器の3Dデータを配布したとして、7月にわいせつ物頒布等の疑いで逮捕されたが、処分保留のまま釈放されていた。今回は再逮捕で、逮捕容疑に別のわいせつ物頒布等容疑も加えられた。

保安課によると、両容疑者は昨年10月~今年7月、文京区内の渡辺容疑者の店のショーケースに五十嵐容疑者の女性器をかたどった作品を陳列した疑いがある。五十嵐容疑者が店でアルバイトしていた。

五十嵐容疑者は昨年10月、女性器の3Dデータがダウンロード出来るサイトのURLを延べ48人にメールしたほか、今年5月、3Dデータを記録したCD―Rを17人に送った疑いも持たれている。

渡辺容疑者は女性向けのアダルトグッズストア「ラブピースクラブ」代表で、ライターとしても活動。7月の五十嵐容疑者の逮捕について、「女性器はわいせつ物ではない」とツイッターでつぶやくなど、警察の捜査を批判していた。

朝日新聞

私がこのことを知った段階では「ろくでなし子は逮捕はされておらず、家宅捜索されて任意同行しただけ」ということだったのですが、結局そのまま逮捕されたのですね。

2831ここまで私が知り得た情報からすると、警察はこの件については書類送検せず、フェードアウトする可能性も出てきていて、「ともあれ、よかった」と思っていたのですけど、こうなりましたか。警察を甘く見てはいかんです。

北原みのりの逮捕によって、「言論弾圧か」みたいなことを言っている人たちがさっそく出てきていますが、それはないでしょ。そうまでして潰さなければならないほど、北原みのりに社会的影響力があるはずもなく、権力がその言論を怖がっているはずもなく。

この再逮捕によって、警察は3Dデータ頒布について、仕切り直ししてきたってことかと思います。ろくでなし子を逮捕したものの、いくつかの理由から、裁判で争うと、そうスムーズには有罪にもっていけない可能性が出てきた。そこで、3Dデータ単体で争うのではなく、展示したことをメインに据えようとしているのでしょう。女性器を型どった石膏の販売については昨年罰金刑になった例がありますし、今回はろくでなし子という個人との紐付けがなされた石膏なので、よりわいせつ性が高いと言うこともできて、こっちの方が楽なのだと思います。

つまり、意地でもあの件を事件化したい警察の意思の表れであり、北原みのりは半ばとばっちりを受けた形。この役割は誰でもよかったはずで、物書きである必要も、フェミニストである必要もなし。むしろ、警察としては男のエロ業界人であれば理想でした(その意味は下に書いてある通り)。

警察のことでありますから、この記事にもあるように、ろくでなし子が、釈放されたあと、警察を批判する発言を繰り返していたため、大いにプライドを傷つけられて、その報復をした可能性も十分あって、その点では広い意味での「言論弾圧」「筆禍事件」とは言えるかもしれないですけど、あり得るのはその範囲まで。

 

警察のもうひとつの狙い

 

vivanon_sentence刑法175条自体、不要で不当という私の立場からすると、刑法175条による逮捕はすべて不当逮捕とも言い得て、この逮捕もまた不当ですけど、裁判でろくでなし子側が勝てるかどうかと言えば、相当厳しくなったのではないか。

「3Dデータの頒布より、石膏の女性器陳列の方が言い逃れられる余地が少ない」ということなのですが、もうひとつ、警察としては文脈を組み換えたいという計算もあるのだと思います。

先に逮捕された段階では「自称芸術家」だったわけですが、今回は「漫画家」と報道されていることに注目。警察発表がそうなっているんでしょうけど、相変わらず、「芸術家」ではありません。ここに警察の意思があります。

釈放されて以降、3Dデータによる逮捕は芸術家文脈に乗りつつあって、東京芸大方面からも支持の声が出てきた。警察はその点でもやりにくくなってきていることを察知していたはず。

裁判官は案外俗物で、こういう印象が強まると、あっさり判決を変えてきたりするんですよ。

前にある弁護士に「松沢さんみたいなタイプがもっとも裁判官は嫌いです」と言われたことがあります。エロだし、下品だし、肩書がないし、権威がないし。そのくせ、うるさいし。

こういうタイプが「マンコくらい見せてもええじゃろ」といくら主張しても、裁判官は影響されない。しかし、東京芸大の人たちが「身体表現のポリティクス」なんて弁護すると、「そうかもな」と思ってしまうわけです。よく知らんけど、そういうもんらしいですよ。

これはただの印象の問題ではなく、芸術という文脈はわいせつ裁判において有効だからでもあります。そのため、警察はそっちの流れを警戒します。

その意味を改めて説明しておきます。

 

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