松沢呉一のビバノン・ライフ

「こっちはいいのか」の擁護論が迷惑な理由・・・行き過ぎた規制は違法店を生む -ろくでなし子再逮捕 [5]- (松沢呉一) -3,765文字-

だからこそ警察は別の容疑を加えてきた・・・警察はいつでもアダルトショップを潰せる -ろくでなし子再逮捕 [4]」の続きです。

 

 

迷惑なだけの「こっちはいいのか」擁護論

 

デコまんvivanon_sentence間が空いてしまいましたが、ろくでなし子再逮捕」シリーズを再開します。

この間に、ろくでなし子は勾留が延長されてしまい、釈放されるのは来週のようです。この逮捕と勾留は不当です。これに限らず、逮捕、勾留が実質的な制裁になるこの国の制度は間違っています。しかし、特定の事例を取り上げて、それだけを不当としても埒が明かない。刑法175条も、風営法違反もすべてそうで、事が起きてから騒いでも間に合いませんので、何もなくても考えていくべきだし、事が起きたら、それを契機に長期で考えていきたいものです。

では、続きを始めますが、釈放されていない現段階で、事件そのものについてとやかく言うのはためらわれるので、しばらく刑法175条から離れて、その前提になる話を進めておきます。

性風俗産業が置かれた位置を理解せずに「ろくでなし子がアウトだったら、こっちのアダルトグッズはどうなんだ」と持ち出すアホが多すぎです。警察の仕事を増やさないように。

アダルトショップがどういう法的地位にあるのか調べたこともなく、知ろうともしないアホどもが「ろくでなし子のこれがアウトだったら、このバイブはどうなるんだ」とことさらにあげつらう。それはチクリにしかならんのだってばさ。

Facebookの私の周りでは、Twitterに出ていたタマキさんの三コマ漫画が 大いに共感されてました。

 


これは見事に「こっちはいいのか」擁護論の行き着くところを表現しています。警官、かわいい。

警察としても、「阿吽の呼吸で容認しているんだよ。そこに素人がしゃしゃり出てきて、いちいち指摘してきたら、こっちも動かなきゃならんだろうが」って話。

私の趣味は東京23区内のヘビ探しですが、こういう話をよく交番で聞きます。「ゴキブリが出た」と通報する人がいるんですよ。ゴキブリをつかまえに行く警察官の気持ちを考えましょう。なんでもかんでも通報していると、このオチのように、自分も通報される社会になります。

警察はこの世の中で起きているありとあらゆる事象を把握し、ありとあらゆる違法行為を摘発できるわけではありません。そこには警察なりの判断による優先順位というのがあって、そこに恣意性が入る余地もあります。

そのことの是非や、その余地を拡大してしまう法律のありようは問われていいわけですが、現にすべてを把握し、すべてを摘発できるわけではない以上、黙認、容認になるところがどうしても出てきます。そこで特定のものを市民が指摘すると、優先順位を上げることになるのです。

それが摘発されると、今度はまた「じゃ あ、こっちは」になってきて際限がなく、気づいたら、今我々が享受している自由が失われます。

わいせつ罪の可罰性 刑法175条をめぐる問題 (刑事法研究)「あっちはいいのに、どうしてこっちは」「今まで黙認してきたのに、どうして今回はダメなのか」という言い分は、警察には通用しません。駐車違反などで、一方で見逃されている例があるのに、一方で罰金になるのは「平等性を欠く」ということで争われたケースがありますけど、勝てないです。理不尽ですけど、どうやっても生じる理不尽です。

それでも比較対照を持ち出すしかないことはあるのですが、その場合は法自体の無効性を問う時だけじゃなかろうか。

今回のケースで言えば、刑法175条は無効であるという指摘をすべく、「刑法175条 があるため、日本のアート界は制約を受けて出遅れている。また、海外の作品の展示も制約を受けるのは文化的損失である。さらに浮世絵の展示もできず、いまなお作品が海外に流出している」といった主張に付随して作品を例示することは当然あるでしょう。

また、「インターネットの時代において、わいせつ物頒布で 取り締まる意味がない」といったように他の表現物を持ち出す必然性があろうかと思います。

 

 

過剰な規制は悪質な店を生む

 

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そもそも「警察はいつでも摘発できる」というゾーンが広すぎます。

警察に楯突けないのはアダルトショップだけじゃなく、性風俗産業全体、風俗産業全体に言えることです。ちょっと逸脱すると、どっかしらに引っかかる。逸脱しない限りは言い逃れできるようになってはいても、いざとなったら警察は動く。通報があれば警察が入り、摘発される。現実にこうして潰された性風俗店は数知れず。残念ながら、性風俗店はそういう存在なのです。

いつでも潰せるジャンルでは、とくに「こっちはいいのか論」は危険です。すぐに警察は動けますから。

 

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