松沢呉一のビバノン・ライフ

著作権保護期間は死後20年もあれば十分-芥川賞受賞作の寿命を調べる-[ビバノン循環湯 28] (松沢呉一) -6,282文字-

2010年にメルマガに書いたものです。

私は以前から「著作権の保護期間は死後20年で十分」と言っています。対してライターの故・石田豊さんは「死んだら即消滅していい」と言ってましたが、それだと、今現在、作品を出している出版社、レコード会社などの権利までが失われて混乱が生じてしまうので、長く見積もって20年あればいいでしょう。20年あれば家族が露頭に迷うこともない。死後20年後も商品価値のある著作物なんてほんの一部ですから、保護期間が何年あろうと、露頭に迷う家族はどのみち露頭に迷う。さらに著作権の切れる死後50年後にも商品価値のあるのはそのまた一部。その一部の人たちのために、すべての著作物の利用が長期間できないのは不当だと私は思ってます。まして死後70年なんてまったく不要。

そのことをはっきりさせるため、芥川賞受賞作がどの程度今も出版されているのか、寿命の長い部類に入るであろう芥川賞受賞作がどの程度商品価値を維持するのかを見てました。気になるとすぐに調べる性格です。あくまで2010年4月時点のものです。

 

 

著作権保護期間は死後20年もあれば十分

 

vivanon_sentence普通に考えたって、今現在活躍している書き手のうちにほんの一部しか、半世紀先に著書が出されていません。私の本なんざ、間違いなく1冊も出ていない。10年後だって怪しい。

たとえばかつて売れていた梶山季之の本で、現在も出ているのは、たったの2タイトルだけです(『赤いダイヤ』は上下巻なので、計3冊)。あとはすべて絶版、あるいは品切れです。著作権が切れるまであと16年。その頃にはゼロになっているのではなかろうか。あれだけの流行作家でもこんなものです。

「流行作家だから普遍性がない」とも言えますが、芥川賞受賞作であっても、いまなお単行本や文庫で出続けているものは、ほんの一部でしょう。

でも、ホントかな? と自分で書いたことに疑問を抱いてアマゾンで調べました。

 

 

芥川賞受賞作の商品価値

 

vivanon_sentence以下、●がついているのは現在、単行本、全集、文庫などで購入できるものです(単著ではないものを含む)。「なし」は受賞作なし。品切れのものも購入できないものとしています。
芥川賞全集 第1巻
講談社文芸文庫(○)は、ここ数年、古い文学作品を文庫にしているのが目立つため、別扱いにしてみました。それでもすでに品切れになっているものもあって、たまたまこういう試みをやった時期にかぶっているだけでしょう。

◎がついているものは、「芥川賞全集」だけで読めるものです。125回まで、全作、「芥川賞全集」に収録されているのですが、この全集自体、品切れになっている巻が多く、在庫のあるものだけ、印をつけてあります。◎のついているものがある時期に集中しているのはそのためであり、これが品切れになったら、◎のものは古本でしか読めなくなります。

単行本や文庫が出ているもので、「芥川賞全集」で読めるものは、●マーク優先にしてあります。

 

 

001(1935) ●石川達三 蒼氓
002(1935) なし
003(1936) ●小田嶽夫 城外
003(1936) ○鶴田知也 コシャマイン記
004(1936) ○石川淳 普賢
004(1936) 冨澤有爲男 地中海
005(1937) 尾崎一雄 暢氣眼鏡 他
006(1937) ○火野葦平 糞尿譚
007(1938) 中山義秀 厚物咲
008(1938) ●中里恒子 乗合馬車 他
009(1939) 半田義之 鶏騒動
009(1939) 長谷健 あさくさの子供
010(1939) 寒川光太郎 密獵者
011(1940) なし
012(1940) 櫻田常久 平賀源内
013(1941) 多田裕計 長江デルタ
014(1941) ●芝木好子 青果の市
015(1942) なし
016(1942) 倉光俊夫 連絡員
017(1943) 石塚喜久三 纏足の頃
018(1943) 東野邊薫 和紙
019(1944) 八木義徳 劉廣福
019(1944) 小尾十三 登攀
020(1944) 清水基吉 雁立
021(1949) 小谷剛 確証
021(1949) ●由起しげ子 本の話
022(1949) ●井上靖 闘牛
023(1950) 辻亮一 異邦人
024(1950) なし
025(1951) ●安部公房 壁
025(1951) 石川利光 春の草 他
026(1951) 堀田善衛 広場の孤独・漢奸その他
027(1952) なし
028(1952) ◎五味康祐 喪神
028(1952) ●松本清張 或る「小倉日記」伝
029(1953) ○安岡章太郎 悪い仲間・陰気な愉しみ
030(1953) なし
031(1954) ●吉行淳之介 驟雨・その他
032(1954) ●小島信夫 アメリカン・スクール
032(1954) ◎庄野潤三 プールサイド小景
033(1955) ●遠藤周作 白い人
034(1955) ◎石原慎太郎 太陽の季節
035(1956) ◎近藤啓太郎 海人舟
036(1956) なし
037(1957) ●菊村到 硫黄島
038(1957) ●開高健 裸の王様
039(1958) ●大江健三郎 飼育
040(1958) なし
041(1959) ◎斯波四郎 山塔
042(1959) なし
043(1960) ◎北杜夫 夜と霧の隅で
044(1960) ●三浦哲郎 忍ぶ川
045(1961) なし
046(1961) ◎宇能鴻一郎 鯨神
047(1962) ◎川村晃 美談の出発
048(1962) なし
049(1963) ◎後藤紀一 少年の橋
049(1963) ◎河野多惠子 蟹
050(1963) ●田辺聖子 感傷旅行センチメンタル・ジャーニィー
051(1964) ●柴田翔 されどわれらが日々
052(1964) なし
053(1965) 津村節子 玩具
054(1965) 高井有一 北の河
055(1966) なし
056(1966) ○丸山健二 夏の流れ
057(1967) 大城立裕 カクテル・パーティー
058(1967) 柏原兵三 徳山道助の帰郷
059(1968) 丸谷才一 年の残り
059(1968) ●大庭みな子 三匹の蟹
060(1968) なし
061(1969) ●庄司薫 赤頭巾ちゃん気をつけて
061(1969) ○田久保英夫 深い河
062(1969) ○清岡卓行 アカシヤの大連
063(1970) 吉田知子 無明長夜
063(1970) 古山高麗雄 プレオー8の夜明け
064(1970) ●古井由吉 杳子
065(1971) なし
066(1971) ○李恢成 砧をうつ女
066(1971) 東峰夫 オキナワの少年
067(1972) 畑山博 いつか汽笛を鳴らして
067(1972) 宮原昭夫 誰かが触った
068(1972) 山本道子 ベティさんの庭
068(1972) 郷静子 れくいえむ
069(1973) 三木卓 鶸
070(1973) 野呂邦暢 草のつるぎ070(1973) ●森敦 月山
071(1974) なし
072(1974) ○日野啓三 あの夕陽
072(1974) 阪田寛夫 土の器
073(1975) ○林京子 祭りの場
074(1975) ●中上健次 岬
074(1975) 岡松和夫 志賀島
075(1976) ●村上龍 限りなく透明に近いブルー
076(1976) なし
077(1977) 三田誠広 僕って何
077(1977) ●池田満寿夫 エーゲ海に捧ぐ
078(1977) 宮本輝 螢川
078(1977) 高城修三 榧の木祭り
079(1978) ◎高橋揆一郎 伸予
079(1978) ●高橋三千綱 九月の空
080(1978) なし
081(1979) ◎重兼芳子 やまあいの煙
081(1979) ◎青野聰 愚者の夜
082(1979) ◎森禮子 モッキングバードのいる町
083(1980) なし
084(1980) ●尾辻克彦 父が消えた
085(1981) ●吉行理恵 小さな貴婦人
086(1981) なし
087(1982) なし
088(1982) ◎加藤幸子 夢の壁
088(1982) ●唐十郎 佐川君からの手紙
089(1983) なし
090(1983) ◎笠原淳 杢二の世界
090(1983) ●高樹のぶ子 光抱く友よ
091(1984) なし
092(1984) ◎木崎さと子 青桐
093(1985) なし
094(1985) ●米谷ふみ子 過越しの祭
095(1986) なし
096(1986) なし
097(1987) ●村田喜代子 鍋の中
098(1987) ●池澤夏樹 スティル・ライフ
098(1987) ◎三浦清宏 長男の出家
099(1988) ◎新井満 尋ね人の時間
100(1988) ●南木佳士 ダイヤモンドダスト
100(1988) ○李良枝 由煕
101(1989) なし
102(1989) ◎大岡玲 表層生活
102(1989) ◎瀧澤美恵子 ネコババのいる町で
103(1990) ◎辻原登 村の名前
104(1990) ●小川洋子 妊娠カレンダー
105(1991) ◎辺見庸 自動起床装置
105(1991) ◎荻野アンナ 背負い水
106(1991) ◎松村栄子 至高聖所アバトーン
107(1992) ◎藤原智美 運転士
108(1992) ●多和田葉子 犬婿入り
109(1993) ◎吉目木晴彦 寂寥郊野
110(1993) ◎奥泉光 石の来歴
111(1994) ◎室井光広 おどるでく
111(1994) ●笙野頼子 タイムスリップ・コンビナート
112(1994) なし
113(1995) ◎保坂和志 この人の閾
114(1995) ◎又吉栄喜 豚の報い
115(1996) ●川上弘美 蛇を踏む
116(1996) ●辻仁成 海峡の光
116(1996) ◎柳美里 家族シネマ
117(1997) ◎目取真俊 水滴
118(1997) なし
119(1998) ●花村萬月 ゲルマニウムの夜
119(1998) ●藤沢周 ブエノスアイレス午前零時
120(1998) ●平野啓一郎 日蝕
121(1999) なし
122(1999) ●玄月 蔭の棲みか
122(1999) ◎藤野千夜 夏の約束
123(2000) ●町田康 きれぎれ
123(2000) ●松浦寿輝 花腐し
124(2000) ●青来有一 聖水
124(2000) ●堀江敏幸 熊の敷石
125(2001) ●玄侑宗久 中陰の花
126(2001) ●長嶋有 猛スピードで母は
127(2002) ●吉田修一 パーク・ライフ
128(2002) ●大道珠貴 しょっぱいドライブ
129(2003) ●吉村萬壱 ハリガネムシ
130(2003) ●金原ひとみ 蛇にピアス
130(2003) ●綿矢りさ 蹴りたい背中
131(2004) ●モブ・ノリオ 介護入門
132(2004) ●阿部和重 グランド・フィナーレ
133(2005) ●中村文則 土の中の子供
134(2005) ●絲山秋子 沖で待つ
135(2006) ●伊藤たかみ 八月の路上に捨てる
136(2006) ●青山七恵 ひとり日和
137(2007) ●諏訪哲史 アサッテの人
138(2007) ●川上未映子 乳と卵
139(2008) ●楊逸 時が滲む朝
140(2008) ●津村記久子 ポトスライムの舟
141(2009) ●磯崎憲一郎 終の住処

 

 

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