私が売春を始めた理由-安全確実な客探し[ビバノン循環湯 42] (松沢呉一) -5,183文字-
「さて、次は何を循環するか」と思って、古い原稿を見ていたら、1995年に「思想の科学」に書いた原稿が出てきました。20年前。すでにどこの誰か誰も特定しようがなく、特定できるような情報は初出の段階で削っていますので、再度公開してもいいでしょうし、今回は一部無料公開しても問題が起きようがなかろうかと思います。
これを読み直して誰のことかすぐには思い出せなかったのですが、まもなく思い出しました。かなり危なかっしいタイプです。このしばらくあとで電話がつながらなくなりました。
「ははあ、こういう方法もあるのか」と当時感心したことはよく覚えていて、それ以降も、こういう方法でフリーで売春しているのと会ったことはありません。今だと携帯で客を探すことになるのでしょうが、おそらく今でもこの方法で商売をしているのがいるはずです。
異常に潔癖な母とセックスをしまくる娘
彼女の仕事を私は知らなかった。バイトをやっているという話だったが、時給800円くらいのバイトではとうてい住めないマンション暮らしをしている。どうもヘンだ。
追求してみたところ、絶対に内緒との条件でようやく告白してくれた。もしかすると愛人か何かをしているんじゃないかとも私は疑っていたのだが、彼女は娼婦であったのだ。
彼女が売春していることは彼女の友人一名が知っているだけだという。
どこの誰かわからないように書くことを約束して、その友人さえも知らない話をすべて私に話してくれることになった。バレるとまずいので、あいまいにせざるを得ない部分があることをお断りして、以下、室谷和美(もちろん偽名)の売春ライフを紹介する。
「初体験は中学三年の時。恋人でもなんでもない友人と勢いだけで済ませた。彼とは一回だけで、それ以来、手当たり次第みたいなところがあって、実家の近くのナンパストリートでナンパされてはセックスしてました。ヤンキーでしたから。でも、別に気持ちがよくてしていたわけじゃない。なんだろうな。楽しくはある。でも、よくわからないよ。気持ちよさで言うと、オナニーの方がずっといい。だって、セックスでは、今でも達したことがないから、比較しようもない」
今まで何人としたか数えられないという彼女が、まだ達したこともないとは。まあ、「ヤリマンのオーガズム知らず」という言葉もあることだし(私が作った言葉だが)。
「中学の時、一人で家出して東京に出て来たんですよ。あてもなく、目的もなく」
家出娘のパターン通り、フラフラしている彼女に中年男性が声をかける。
「東京まではキセルしたんだけど、帰りのお金がない。そこで帰りの電車賃を出してもらうことを条件にホテルに行った」
電車代は七千円。これっぽっちで中学生の彼女は最初の売春をする。安い! なんて感心している場合ではない。
翌日彼女は無事実家に帰るが(無事かどうかは微妙なところだが)、これを契機に彼女は地元で頻繁に売春するようになる。今まではタダでやっていことなのだから、金をもらうのにもさほど抵抗はない。
「でも、お金のためという感じでもなかった。若い男だと相変わらずタダでしていて、オジサンとする時だけお金をもらっていたよね」
この頃は友人とともに二人で売春およびナンパを楽しんでいたのだが、この頃でも、お金をもらうもらわないを問わず、セックス自体、少しもいいものとは思わなかった。
「セックスすると痛いんだよね。体じゃなくて、心が痛い。ナンパにしても売春にしても、自分自身を無茶苦茶にしたいような気持ちがあったんだと思う」
ここが不思議なところなんだが、何か自分を無茶苦茶にしたくなるような原因があったわけではない。「普通」と言うしかない家庭環境で、特別の体験もない。せいぜい中学二年の時、教師が暴力を振るうことに腹を立てて、学校を嫌いになったことくらいだ。これがヤンキーになるきっかけだったらしいのだが、その程度で自分を無茶苦茶にしようとしなくてもよろしい。
「レイプとか性的虐待をされたわけじゃないんだよね」と聞いたら、「あ、レイプはあるよ」と彼女はこともなげに答えた。しかし、これは高校に入ってからのことだ。
中学とともに一旦売春を卒業、高校に入ってからは不特定多数とのセックスをするだけとなる。その中の一人に彼女は恋愛感情を抱いていたのだが、相手は単なるセックスの対象としてしか彼女を考えておらず、その男に騙されて、五、六人に車の中で輪姦される。
「泣いたし抵抗もしましたよ。あいつら全員、絶対に殺してやるとずっと思っていたけど、今はもうどうでもいい。関係ないって感じ」
この事件以降はやたらなセックスはしなくなる。よくあるレイプによる自暴自棄とは逆コースだ。
「セックスする相手はいつもいたけど、誰でもOKみたいなことはなくなった。今考えるとなんだけど、セックスをしまくっていたのは、親への反発もあったかもしれない。うちの親は抑圧が強いんですよ。特に母親は性的なものを受けつけない。異常なくらいダメで、テレビのキスシーンさえ見れない。病的なんです。私はそういうのが好きで、わざわざそういうものを見て、わざわざ母親に報告しに行ったりして(笑)」
ラブホテルは嫌い
高校卒業後、東京に出て来てバイトをしながら一人暮らしを始める。この時期に私は彼女と知り合っており、ちょうど同じ頃、彼女は売春を再開していた。
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