松沢呉一のビバノン・ライフ

売防法とは? その意図と目指すべき方向-[ビバノン循環湯 37] (松沢呉一) -11,105文字-

売防法を買春者処罰に作り変える動きが出てきて、売防法に関する議論、売買春に関する議論を今後やっていく必要がありそう。とは言え、あの人たちは公開で議論なんてしない。そのくせ政治には長けているのが侮れないところです。

こちらとしてはあの人たちがどういう背景の元でそのような改正を狙ってきているのかをここまでの活動からあぶり出し、彼らに騙される人たちが出ないように情報を発信し、彼らを包囲、孤立させる方向で議論を深めていくってことだろうと思います。

法を踏まえないで議論しようとする人たちは往々にしてノイズにしかならないので、発言する気のある人は必ず売防法には目を通した方がよいかと思います。目を通しても間違いはどうしたって起きます。まして目を通してないとトンチンカンなことになるのは必至。

そこで、売防法の解説めいたものを書こうかと思ったのですが、そんなもん、過去になんか書いているだろうと思って自分の原稿を検索したら、書いてました。1999年に「ダ・カーポ」に書いたものです。その段階で、買春処罰を盛り込む動きについて書いています。事実、その段階で、そういう動きを矯風会周辺では見せていたのです。当時は両罰規定を狙っていて、今になって彼らがあたかも「女性の人権」「女性の救済」であるかのような装いをしてきたのがいかにウソであるかがわかりましょう。女を罰する法律を作り、セックスワーカーによる非犯罪化を求める動きが起きて以降も、女たちを罰する条文を残しつつ、客も罰する改正をずっと狙ってきた人たちがよく言いますよ。

十数年振りに読み直したら、はっきり間違っている記述を発見。そこは手直ししました。「これは成立しないだろ」という考えも書いていて、これ自体、まったく覚えていなかったのですが、そのままにしておいて、追記で説明しました。詰めの甘い部分もあるのですが、概要はつかめましょう。

長いですが、一度に出します。売防法についての資料はうちに多数あるのですが、Amazonでは適切な書影が見当たらず、うちにあるのもすぐには出てこないので、出てきたらあとから入れておくとします。

 

 

売防法の目的

 

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売春防止法(売防法)は1956年(昭和31年)に制定され、翌年一部施行、さらに翌1958年(昭和33年)に全面施行された法律。全面施行の年に生まれた私は、売防法とともに生きてきたと言ってもいい。少しも嬉しくない。

売防法第1条の「目的」にはこうある。

この法律は売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行または環境 に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによって、売春の防止を図ることを目的とする。

また第3条「売春の禁止」にはこうある。

何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。

この国では、売春がいけないことになっているらしきことはわかる。つまり、違法ってことだ。買春も同様。

では、質問。ある女が懇意の男に「セックスさせてあげるから三万円くれない?」と持ちかけて相手の男が承諾、セックスをして三万円もらったとする。この女や男は売春防止法による処罰を受けるかどうか。

客である男は何のお咎めもないのはご存じの通りだが、この場合は女側を罰する規定もない。単純売春(売春する女性が客との間で直接金銭授受をする形態)は処罰の対象ではないためだ。管理売春(雇い主が女子を雇い入れて、売春をさせる形態)であっても、売春する女を補導したり保護したりするだけで、また、事件の参考人として呼ばれることはあっても、処罰の対象ではない。

 

 

「勧誘」を取り締まる意味

 

vivanon_sentenceただし、第5条に「勧誘」の規定があるため、売春者本人が不特定の人に「遊ばない? 三万円でいいわよン」と声をかけると処罰対象となる。

第5条は以下。

売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、6月以下の懲役又は1万円以下の罰金に処する。
1.公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方になるように勧誘すること。
2.売春の相手方になるように勧誘するため、道路その他の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
3.公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。

テレクラや伝言ダイヤルなど電話を使った売春の摘発が相次いでいるが、これは1号の「公衆の目にふれるような方法」での勧誘、または3号の「公衆の目にふれるような方法」での客待ち、「広告その他これに類似する方法」による誘引と見なされるためだ(実際には3号で摘発されているらしい)。

「三万円で遊びませんか」と最初から伝言を残しておいたら言い逃れはできないが、単に「お茶を飲みませんか」と誘い、会ってから売春交渉をしたのなら、本人がそう認めない限り、それが客待ちや広告であったことを第三者が証明することは困難である。

テレクラや伝言で売春するなら、電話の段階で金銭交渉せずに、会ってから持ちかければいい。万が一、相手が警察であったら、「たまたまステキな人だったので、急に売春したくなっただけであって、最初からそのつもりはなかった」と言い張ればいい。

 

 

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