ラッツ&スターの黒塗りとミンストレル・ショー-差別的表現再考 4 (松沢呉一) -2,558文字-
なぜ黒塗りは無条件に否定されるのか
ちょっと時間が経ってしまってますが、ラッツ&スターのメンバー、佐藤善雄氏のTwitterアカウント(@barrysato)で、ももクロと共演したテレビ番組でともに黒塗りをしていた写真を放送前に公開した件について書いておきます。
すでに該当ツイートは消しているようですが、それに対して、ニューヨークタイムスのHiroko Tabuchi記者(@HirokoTabuchi)が批判。
こういう表現に対して、黒人差別の歴史があり、今なお続く文化圏の人々が敏感に反応するのは当然です。ミンストレル・ショーの歴史があって、blackface performanceは無条件でアウトになる。
これは映画から切り抜いたもののようですが、ミンストレル・ショーは白人が黒塗りをして、歌やダンス、芝居をする娯楽です。Wikipediaを読んでいただければわかるように、そのすべてが露骨な黒人差別に根ざしたものだとすることはできないにしても、法で裏打ちされた差別的地位を前提に成立していた表現であり、黒人自身はミンストレル・ショーに出演することも容易ではありませんでした。
支配者による娯楽、興行でしかなく、演者たちはステージを降りれば差別されない地位に戻ることができる。それを前提として演じられ、それを前提として客は楽しんでいた。そこに黒人に対するリスペクトなるものがあろうとも、当の黒人はその外で迫害され、殺されていて、その現実を見ないまま、黒人を娯楽の素材、商売のネタとしていたと断じていいでしょう。
こういった歴史を踏まえた時に黒塗りがすなわち差別表現であると見なされるのは当然です。
表現の背景を無視して楽しむことはどこまで可能か
しかし、判断が難しいのは、その歴史的背景をそのまま共有できているわけではないこの日本において、黒塗りが無条件に差別表現だとされるべきなのかどうかです。
ラッツ&スターが黒人音楽をリスペクトしているのは事実でしょう。その思いまでを簡単には否定できないとも思います。とりわけこの国では、黒塗りからすぐに差別の歴史を連想することはできず、ミンストレル・ショーの過去があるわけでもないのですから。
では、この国に人種差別の歴史、黒人差別の歴史がなかったかと言えば、ないはずがないし、今もあります。そのことがもっとも顕著に表れたのが戦後の混血児問題です。
これについても書いたものがあるので、そのうち出すかもしれないですけど(追記)、この日本においても、白人兵と黒人兵の行く店は別。相手をする女たちも別。その結果生まれた黒人兵の子どもは捨てられ、時に殺されていました。白人の子どももまた同様でしたが、より黒人の子どもはひどい扱いを受けていました。なぜ施設で育った子どもたちの多くが日本にいられず、米国に渡るしかなかったのか。いかに差別がひどくても米国の方がまだましだったからです。
一昨年亡くなった山口冨士夫は英国人との混血ですが、孤児院で育っていて、差別されたことを語っていたこともあったはず。「あいのこ差別」は厳然と日本に存在していたのだし、とりわけ黒人との混血は忌避されるべき存在だったのです。
そういう事実さえ忘れられています。その歴史や現実をなかったことにして、「差別のあった米国とは違う」と言うことが正しいのかどうか。正しいわけがない。
この問題はこと黒塗りをするラッツ&スターだけの問題ではなく、そういった歴史や現実を見ずに、あるいは黒人の文化をその背景から切断して娯楽として楽しめてしまう我々日本人総体の問題なのだと思います。
ざっくり言えば黒人が差別されることが法的にも肯定され、日常的に殺されさえしていた現実と切断して黒人を娯楽の素材としていたミンストレル・ショーと同じことを多くの日本人はやってしまっているってことです。
そこを見据えずに、「日本は関係ない」とは言い切れない。と同時に、黒塗りだけを取り上げて、「けしからん」とやっても問題は解消されない。
だからといって、つねにその表現の背景にある歴史、社会制度を理解しないと楽しんではいけないのであれば、どんな音楽も小説も映画も絵画も楽しむことができなくなるでしょうし、その行為は差別者による簒奪であるとの批判を受け入れるしかなくなる。それもまた行き過ぎだろうと思います。
では、どうすればいいのか。実のところ、それほど難しくはないと私は思っています。根本的な解決は難しくても、表現の問題としてはさほど難しくはないのではないか。やる人たちがあまりに少ないのが不思議ですが。
以下、その具体的方法を論じておきます。
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