松沢呉一のビバノン・ライフ

オンリーさんと混血児-日本における黒人差別 2-(松沢呉一)-3,374文字-

「 米国のみでヒットした江利チエミの「ゴメンナサイ」-日本における黒人差別 1」の続きです。

 

 

 

「人種差別はこの国にはない」とすることの問題

 

vivanon_sentenceラッツ&スターとももクロが黒塗りをしたことに関し、米国デューク大学の日本語学部の学生たちにインタビューした弁護士ドットコムの記事は傾聴に値します。

とくに私が「その通り」と同意したのはまとめの部分。

 

 

インタビューを通じて、筆者の印象に残ったのは「日本では、人種差別は起きていないと考えられている向きがある」(ジャイヤさん、アレクシスさん、デクスターさん)という指摘だ。そのような「差別の存在の否定」こそが「無意識の差別を助長している」というのだ。

日本では「自分たちとは関係がない」と考えている人も多い「人種差別」の問題。しかし、そのような意識が強いがゆえに、いまの日本社会では「人種差別」について真剣に考える機会が失われているといえるのかもしれない。

弁護士ドットコムNEWS

 

 

「日本に人種差別はない」「米国の黒人差別とは関係がない」「自分にも関係がない」→「だから、黒塗りはリスペクトの意味しかない」という論理でしょうが、前提が間違っているので、この論理は成立しません。

知らないだけ、見ないようにしているだけ、忘れているだけ。

 

 

米兵とオンリーさん

 

vivanon_sentence占領を解かれた日本を待ち受けていたのは、進駐軍が残したさまざまな傷跡の処理でした。気づいていなかったこと、気づかないようにしてきたがことが一気に吹き出します。中でも当時の雑誌が繰り返し取り上げていたのが混血児問題です。これはドイツでも同じだったらしい。

進駐軍の兵士との日本人女性の間に、いったいどれだけの子どもが生まれたのか、正確な数字は誰もわかりません。公的な調査もなされているのですが、初めて行政による調査がなされたのは昭和28年のことです。もっと早い地域もあったかもしれないですが、占領下ではそれも不可能でしたから、早い調査があっても、この前年くらいかと思います。

昭和28年の段階では海外に渡った子ども、国内で里子に出された子ども、死んだ子ども、殺された子どもいて、基地周辺だけを調べてもわかりようがないのですが、全国で数万人になることは間違いがなく、20万人を超えるという説もあります。ざっくり言えば2万人から20万人くらい。「どんだけアバウトか」という話ですが、そのくらい数字がわからない。

IMG_6097昭和28年に行われた立川市およびその周辺地区で行われた調査では、立川市内には55名、三多摩地区には282名の混血児がいたとされています。たいした数ではないと思うかもしれませんが、その時点で把握できた数でしかありません。

これは西田稔著『オンリーの貞操帯』(昭和31年・第二書房)に出ている数字です。第二書房はのちに「薔薇族」を創刊するあの第二書房です。

「オンリー」というのは米兵の愛人の通称で、基地のあった場所で年配の人に聞くと、たいてい「オンリーさん」という呼び方を知っています。複数の相手をするパンパンに対して、一人を相手にします(オンリーを含めて「パンパン」とする用法もありますが、この頃は両者をはっきり区分けしており、この本では街娼だけじゃなく、飲み屋の女でも一夜の相手をするのをパンパンとしています)。

パンパンで気に入ったのがいると独占したくなり、オンリーにするわけです。また、基地内のPX(売店)などで働いているうちに見初められてオンリーになるのもいました。手当をもらう愛人とは言え、兵役を終えないと結婚ができないため、婚約者だと言ってもそうは間違いではありません。

次々と相手を変えるパンパンたち、また、オンリーの中でも、相手を変えるタイプをバタフライと呼びます。「ゴメンナサイ」の歌詞に自分を「バタフライ」としている箇所があり、この意味のバタフライを踏まえているのかどうかは不明。

そのオンリーに焦点を当てた本として『オンリーの貞操帯』は大変貴重な内容です。帯の推薦文は売春否定のイデオローグである神近市子が書いておりますが、著者は売春否定を目的としているのではなく、淡々と事実の記述に徹しています。基地でヒットしていた「ゴメンナサイ」という曲を初めて知ったのもこの本でした。

 

 

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