ヘイト・プロテスタントは何が間違っているのか-ソウル・クィア・パレード 7(松沢呉一) -3,030文字-
「ヘイト・プロテスタントは厄介者-ソウル・クィア・パレード 6」の続きです。
賢い宗教の経営方針
しばしば宗教団体は成長期には外部に敵を求めます。それを経て内部が結束し、忠誠心の薄い者たちを排除し、意思の強いものたちを選別して強固な組織作りをする。
しかし、一定の信者を得て安定期に入ると、「金持喧嘩せず」になっていく。軋轢を生じさせないようにし、社会との折り合いをつけて組織維持を実現していきます。
日本の矯風会だって内心は同性愛に反対でしょうけど、それを露骨に打ち出して敵を増やすことはしないようなものです。
ズルいっちゃズルいですけど、その点で、私の目にはヘイト・プロテスタントは教団経営を間違っているように見えました。
韓国には韓国の事情があるんでしょうけど、おそらく彼らは今の韓国社会を読み間違え、社会と乖離して時代から取り残され、まさに「老害宗教」と化しています。
米最高裁の「同性婚合憲判決」に対するバプティスト派の牧師による呼びかけ文「同性婚が米国で合法化 心配しないようにしよう」の中に、こういうフレーズが出てました。
信教の自由と同性愛をめぐる、喫緊の深刻な課題があることは否定できない。しかし連邦最高裁の判決が、これらの課題をさらに深刻なものとするかどうかは判断しがたい。多くの人は反差別法について考えるだろう。同性婚の結婚式にサービスを提供することを拒否したい保守派にとっては、何らかの衝突を引き起こすだろう。しかし福音派は、これまでは自分たちに親和的だったが今やそうではなくなった社会において、生きることに慣れていかなければならない。
ちょっとわかりにくいですけど、反差別法はこれまで米国のLGBT権利運動において根拠となってきた法律のひとつです。これは州法で、なお保守派の強い地域では反対が強くて制定されておらず。それが今回の判決によって、反差別法をすっ飛ばして同性婚に対するサービスを提供することを義務づけるので、衝突が起きると予想できるということかと思います。
しかし、この牧師はそれをたしなめ、「以前とは時代が変わったことを見極めて、今の社会に慣れろ」と呼びかけているわけです。これが正しい宗教経営でしょう。
アーミッシュのような電気や車も使わない生活をしているんだったらともかく、都合のいいところだけ近代化して、他者にまで聖書を字義通りに押し付けるようなことをしていたら孤立するのは当然。そのまま滅びればいい。
おそらく韓国でも、プロテスタント教団の一部は正しい経営に転じているはずですが、なにぶんにも母数が大きいため、一部の狂信的宗派であっても、あれだけの数が集まってしまうのだろうと思います。
韓国社会のホモフォビア
ヘイト・プロテスタントは社会と乖離しているとは言え、その主張は韓国社会を反映しているところがあります。 たしかに今なお韓国社会ではLGBTの理解が十分ではない。日本でも十分ではないですけど、それ以上に足りない。
パレードの翌日、桜井信栄さんと東大門市場にタッカンマリ(韓国式水炊き)を食べに行きました。カムジャタンもそうであるように、ソウルには料理単位で専門店があり、それが集まったストリートがあって、ここはタッカンマリ・ストリートです。
我々はパレードの話をしていたわけですが、隣に若い男女がいて、彼らもまたクィア・パレードの話をしていました。もちろん、私は桜井さんに教えてもらってわかったんですけど。
彼らはたまたまパレードを見かけたのか、報道で知ったのだと思われ、女の方はどちらかと言えば好意的。しかし、男は「あいつらはおかしい」と頭ごなしにそれを否定。
男尊女卑の社会でありますから、男がそう言うと、女はそれに強くは反発せず。言葉ができれば、横から説教してやったのに。 それでも食事の時に話に出るくらいにはなっているわけで、パレードの認知度は着々あがってきている模様です。
認知されるがために肯定的な層が増えると同時に反発する層も表面化していきそうです。 こういった社会のありようをプロテスタント教団は背景にしてはいても、その行動は支持されない。あの彼だって、プロテスタントに対しても同じく「いかれている」と思っていたのではなかろうか。
なお、タッカンマリはタレが日本と違うだけで、水炊きそのものでありまして、私はカムジャタンの方が好きです。
なぜ若い信者たちは不安そうだったのか
ヘイト・プロテスタントには、若い世代もいたのですが、上の世代と違って若い世代は自信がなさげに見えたことを書きました。私のこの印象は間違っていなかったようです。
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