松沢呉一のビバノン・ライフ

世田谷区のセクシュアルマイノリティ施策-渋谷区と何が違うのか(松沢呉一)-2,535文字-

保坂展人区長の言葉を読む

vivanon_sentence渋谷区については詳細に条文を検討したのに、世田谷区の「パートナーシップ宣誓書」についてはここまで触れてこなかったのはバランスが悪い。そもそも条例ではないので、検討する条文がないってことだったりもするのですけど、遅ればせながら簡単に触れておきます。

保坂展人世田谷区長が自分の言葉でこう説明しています。

 

「ふたりとも20歳以上」で「区内在住か、ひとりが区内在住でもう1人が区内転居予定」の同性カップルを対象として、区役所の窓口に「パートナーシップ宣誓書」を提出してもらいます。文面は、「私たちは『世田谷区パートナーシップ宣誓の取り扱いに関する要綱』に基づき、互いをその人生のパートナーとすることを宣誓し、署名をいたします」という簡単なもので、日付と住所、署名をしてもらい区で受け取ります。この「宣誓書」と引き替えに、区は「パートナーシップ宣誓受領証」を発行します。

その文面は「ここにおふたりが、『世田谷区パートナーシップ宣誓の取り扱いに関する要綱』に基づき、「パートナーシップの宣誓」をされたことを証します。これからの人生をお互いに支えあい、歩まれる、お二人のご多幸を願います」で始まり、「今後とも、おふたりが世田谷でいきいきと活躍されることを期待いたします」と結んでいます。窓口を訪れた同性カップルには提出いただいた「宣誓書」の写しと、「受領証」が手渡されます。

(略)

私は、先行して同性パートナーシップ条例を成立させた渋谷区にも深い敬意を表しつつ、当事者の方に示した通り、条例によらない「区長裁量」で出来る「要綱」の形でなるべく時間をかけずに取り組むことを第一段階としたいと考えました。それが、今回の発表の内容です。ただし、今回の「宣誓書」の受領と「受領証明書」の発行で、すべての課題が解決するわけではありません。第2段階として、すでに始まっている世田谷区第2次男女共同参画プラン検討会に、LGBT当事者にも入ってもらい区の出来る範囲の事柄で検討すべきことを整理し、今後、何をするべきかを議論していただき、さらには提案をいただきたいと考えています。本来は法制度に深く関わる問題です。国政上の課題として、超党派議員連盟の動きにも自治体として注目し、情報交換をしたいと思います。

今回発表した「世田谷区パートナーシップの宣誓の取り組み」は11月に実施する予定です。この手法による法的効力は直接的には、ありません。しかし、こうして基礎自治体が、これまでになかった最初の一歩を進めることで、LGBT・性的マイノリティの皆さんが生きづらい社会から互いに尊重され認め合う社会へと変化していくのではないでしょうか。

The Huffington Post

 

世田谷方式のメリット・デメリット

vivanon_sentence「ビバノンライフ」で指摘してきたように、拙速であったと言わざるを得ない渋谷区の条例に比べると、はるかに賛同しやすい内容です。

「法的効力がない」という批判はあるとして、この点では渋谷の条例も実際にはさして変わりはありません。

私を含めて渋谷区の条例について、条文までを検討した人たちの意見を前にこうまとめています

1)パートナー証明がなくても解消できる問題しか解消されない。

2)メリットがないわりには要件が厳しいため、パートナー証明を申請する人の数は多くないだろう。

3)あの条例で効果が期待できるのは、行政や事業者が内部向けの研修をしたり、相談窓口を設置するなどの対応をする点であり、パートナー証明ではない。

実効性があるように見えるのは、もっぱらパートナーであることの条件となっている任意後見人契約によるものです。たとえば家族と同じ扱いで病院に見舞いには行けるわけですけど、これは条例があろうとなかろうと任意後見人契約によって効力を発することは確認済みです。財産処分についても同様です。

あるいは、区営住宅については、既存の条例の改正でよりよい内DSCN2295容に改正可能です。これを同性のパートナーに制限して解消しようとすると、現状ではおそらく利用できる人の数は微々たるものになるはずです。「あの人たちは同性愛者だ」とわかってしまうので。

パートナーになることの条件が厳しいため、申請者の数が増えないのも問題。登録人数が少ないと条例自体の意義が失われます。

したがって、渋谷の条例で期待されるのは3項目目です。当初は違反した事業者は公表することになってましたが、これは見送りに。しかし、それでも、この点は意義がありましょう。

であるならば、無理をしてパートナー証明を条例化する必要はなくて、この部分を求める条例や条例に至らない対策をとっていった方がよく、この範囲である限り、反発もほとんど起きないでしょう。

※写真は、現在、世田谷区内の銭湯で実施中のスタンプラリーの景品であるTシャツ。6軒回るともらえるのでちょろいです。現在、色違いの2枚目を狙ってます。

 

世田谷区の姿勢を支持する

vivanon_sentence保坂区長が言うように、世田谷区では、すでにさまざまな対策をとり始めていて、その上での「パートナー宣誓書」です。直接的な効力はなくとも、こういうことを積み重ねでしか世の中は変わらない。

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