松沢呉一のビバノン・ライフ

擁護することの躊躇-「挽きたてカフェオレ『旅立ち』篇」の批判と擁護 1(松沢呉一) -2,859文字-

 

 戸惑いのショートムービー

 

vivanon_sentenceAGFのショートムービーには頭を悩まされました。つうか、今なお悩み続けています。

このショートムービーの正式名称は「挽きたてカフェオレ『旅立ち』篇」。ここでもその名称を使用します。

 

 

スクリーンショット 2015-10-08 17.57.31

 

 

今確認をしたら、電通からの申し立ててでYouTubeにアップされていた動画は削除されてました。まだ残っているものがありますが、これではっきりしました。もともとゾーニングされていたものを無断で広く公開した人がいたために今回の騒ぎが起きたってことです。

画質が悪く、投稿者が個人であったため、無断投稿であろうことは想像できましたが、これで確定。特設サイトで限定公開されていたものなのに、観るべきではない人たちの目に触れたことが騒ぎの原因だったと言っていい。

おっちょこちょいな人たちが、私の意思とは別の方向で解釈するかもしれないので、先に書いておきますが、以降書いていくことは、これを差別表現だとする人たちや、抗議、不買といった動きをしかねない人たちに対する批判が主です。

これを観て不快になる人たちがいることは当然想像できるとして、その不快感は抗議や不買運動につながるようなものではなく、ただの個人の感想。つまり、「必要以上に仮想がリアリティをもって受け取られた」ってことであり、仮想を仮想として受け取れる人びとに向けたゾーニングの範囲を超えてしまったことに原因があるのだと思っています(ここでのゾーニングはエロや残虐シーンのある表現に対するゾーニングとはまた意味合いが違います。それについてものちのち論じます)。

 

 

擁護しようとするとためらう事情

 

vivanon_sentenceやれ「不快だ」「気分が悪い」「最後まで見られなかった」「不買だ」「抗議だ」と言い出す人たちに対して、通常であれば、すぐさま私は擁護の論を張るでしょうけど、これについてはそれができませんでした。それらの批判の安易さまでは指摘できるのですけど、擁護の論がクリアにならない。

スクリーンショット 2015-10-08 17.59.11

この中に不快感を喚起する要素はいっぱいあります。教師以外は全員鼻に輪っかをつけていること自体、ギョッとします。だからといって、さまで批判されるようなことか。

「こんなん、ウシの現実を描いたフィクションであり、いくら不愉快と言おうとも、ウシの現実が不愉快であるに過ぎない」、あるいは「この社会の現実を誇張した設定が不愉快なのは、この社会が不愉快だからであり、このショートムービーをいくら非難しても、現実はひとつも変わらない」と言おうとすると、どっかにひっかかりが生ずる。

いかにグロテスクな表現であっても、通常は擁護できるのに、どうして「挽きたてカフェオレ『旅立ち』篇」ではそれがすんなりとはできなかったのか。

まずそのことを見ていきます。

 

 

広告であることの意味

 

vivanon_sentenceこれが「挽きたてカフェオレ」を売るための映像であることに擁護しきれない理由があるのは容易に気づけるわけですが、「広告であることが、この動画にどういう意味を与えていて、そのことがどうして擁護をためらわせるのか」をうまく言葉にできないでいました。

「制作主体が企業である。企業には公的な性質がある以上、その表現は世間一般の標準的な感覚、良識の範囲に留めなければならない」ということかと思ったのですが、テレビ局も映画会社も出版社も企業であり、むしろ公的性質はこちらの方が強いのですから、一般のドラマや映画や小説も擁護できなくなってしまいます。こんなバカな話はない。

AGF ブレンディ スティックカフェオレ 100本このひっかかりがうまく言葉にできなかったので、私はこの映像に触れることができず、Facebookの他人の書き込みに「なぜ擁護しようとするとためらいが生じるのか」についての戸惑いをコメントしたりしてました。ほうとうひろしさんがそれをまとめてくれていますので参照のこと。

これが嫌いな商品であれば「あんな商品を擁護できるか」となることもあるでしょうけど、歳を食って牛乳を飲むと下痢をするようになって牛乳を常備しなくなったため、カフェオレを飲みたくなると、スティックのインスタント・コーヒーを愛用していますから、ブレンディを擁護できない事情があるわけでもない。

 

 

next_vivanon

(残り 1303文字/全文: 3071文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ