氏名表示権を軽視する出版関係者たち-葉石かおりの著書を巡って-(松沢呉一) -3,094文字-
自著を出した出版社にパクられた件
昨日から気になっていたんですけど、文庫の仕事が大詰めなのですぐには反応できず。今日もまだ作業に追われているのですが、見過ごせないのでまとめておきます。
葉石かおりさんがエイ出版から出した『うまい日本酒の選び方』が、著者に無断でセブンイレブン用の廉価版が出されてしまった件です。
以下がオリジナルの著書。
すでに回収が決定したということなので、あとは著者と出版社の間の話し合いにお任せしていいかと思うのですが、この騒動は「いかに出版界では著作権の軽視が横行しているのか」を見事に明らかにしているので、改めてそのことを見ていきます。エイ出版だけの問題ではないのです。
「パクリ」という表現
著者がこのことを書いたブログがFacebookでシェアされていたのを見て、私はこの件を知ったのですが、その投稿では、彼女が「パクリ」という表現をしていたことが取り上げられてました。「おかしくないか」と。
Twitterでも「パクリ本」としています。
そこにおかしさを感じたのはわからんではないのですが、そればかりか、「写真だけを使用された」と誤読をした人が「自分で文章を書いていないのではないか」といったコメントをしていました。私がその誤読を指摘して、コメントは削除されましたが、出版社にひどい扱いをされた上に、なんでこんな誹謗中傷をされなきゃならんのか。
内容がそのまんまの廉価版を出されたのであれば、「パクリ」とするのは違和感があるのは理解できますが、これはそういう話ではありません。「自分の書いた本が自分の書いた本ではなくなった」という話です。
氏名表示権を軽視する出版関係者たち
これ以降も、出版関係者が「これ自体はよくあること。ただの連絡ミス」と評しているのを見てうんざりしました。
文庫がそうであるように、単行本を出した出版社が二次使用するのはよくあること。漫画の単行本をコンビニ向けの廉価版にするのもよくあること。
しかし、今回はそれらとは決定的に違っていて、自分の著書として出たものが、題号を改変され、文章を改変され、著者名も外されていたってことです。「まんま廉価版にされた」という話とは全然違います。
当初著者は、廉価本の現物を見ていなかったためか、著者名がどうなっているのかについて触れておらず、「ねとらぼ」の記事にも触れられていないため、「内容そのまんまの廉価版」と受け取った人たちがいたのでしょうが、「ねとらぼ」の記事にSSが出ているように、セブンネットショッピングにはこうあります。
著者名がありません。著者が出していた廉価版の表紙を見ると、ムックの体裁で、やはり著者名はないようです。
著者は回収を報告するブログのエントリーで改めてこう説明をしています。
今回のパクリ本の際の連絡は無く、別のライターを起用し、ほぼ構成は同じ、語尾、デザインを変えただけの本が刊行されました。構成だけならまだしも、私が常々話している酒と料理の味の濃度を合わせるという、ペアリングのルールまで掲載されていました。長年、日本酒を書き続けていないと理解できない内容を、あたかも取材しなおしたかのように再編集され、私の名前はどこにも掲載されない。
これを「パクリ」とするのは少しもおかしくない。
著作権侵害であり人格権侵害である
著作権上、著作者の氏名の表示は重要な意味を持っていて、法的に表示された名前が著者であることの根拠にもなりますから、あるとないとでは大違い。
このケースでは、形式上、個人の著作物であることが表示された出版物を別の著者の著作物、あるいは出版社の法人著作物として出版したってことですから、よくあることじゃない。
(残り 1602文字/全文: 3306文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ