差別か風刺か-朝日新聞を添削する 1-(松沢呉一) -2,717文字-
朝日新聞のどこが間違いだったのか
はすみとしこのイラストを「差別か風刺か」とした朝日新聞の記事は改めて何が問題だったのかを見ておく必要があろうかと思います。
たしかに「意味のない両論併記」「偏った中立」と読めなくはないのですが、記事全体のスタンスはそうおかしくない。では、どこがどうおかしいのかをしっかり指摘しておきたい。
もう一度記事をじっくり読んでいただきたい。あの記事は冒頭に出ているリード部分のままの記事です。
シリア難民の受け入れが国際的な問題になるなかで、日本の漫画家がフェイスブック(FB)に投稿したイラストが波紋を広げている。難民に対して差別的などとして国内外のメディアが相次いで報じ、ネット上の「表現の自由」がどこまで認められるか、議論を呼んでいる。
よく本文を読めばわかるように、「差別か風刺か」が指しているのは、批判を浴びながらも削除しないFacebookの対応です。そこまで踏み込むのであれば、もっと能力のある人が、もっと文字数を使って、ちゃんと議論をまとめればいい記事になったかもしれないのに。
該当するのは以下の部分。
■「削除の対象か微妙」
国内でも批判の声が上がり、FB側に「レイシズム(人種差別主義)と認めて削除を」と求める署名には、1万人以上が賛同した。
河野至恩・上智大准教授(比較文学)は「イラストは、難民という弱い立場の人への無理解に基づいており、風刺とはいえない」と指摘する。ただ、「個人を直接攻撃するものではなく、FBの明確な削除対象になるかどうかは微妙」という。
特定の個人や団体をおとしめる内容があれば、刑法の名誉毀損(きそん)や侮辱罪などになりうるが、「難民」など不特定の集団では適用が難しく、削除するかどうかは運営する事業者にゆだねられている。
FBの規約では、人種や信仰、性別などに基づいて他人を直接攻撃する差別発言は削除すると定める。FB広報部は取材に対し「利用者が自分の責任のもとでシェアできる場となるよう願っており、自由に発信できることと、安全と尊敬のある利用のバランスを常に意識している」と説明した。
現実にFacebookが削除しなかったのはなぜなのかを探ろうとしています。その姿勢はよし。しかし、この記事は説明不足のため、間違った認識を広げてしまうので、代わりに私が正確に説明しておきます。
Facebookの規約を確認する
記事にあるように、Facebookの規約では、「人種や信仰、性別などに基づいて他人を直接攻撃する差別発言は削除する」となっています。
具体的には、3「安全に利用するために」の7項目にこうあります。
差別的、脅威的、またはわいせつ的なコンテンツや、暴力を誘発するようなコンテンツ、ヌードや不当な暴力の描写が含まれるコンテンツは投稿できません。
コミュニティ規約では、差別発言をこう定義しています。
差別発言とは、他人を以下のような要素に基づいて直接攻撃する内容を含むコンテンツのことです。
人種
民族
出身地
信仰
性的指向
性別、ジェンダー、性同一性
障害、病気弊社はこれらの集団に対する憎悪を煽ることを目的とした団体や個人がFacebook上に存在することを許可しません。
Facebookが差別のカテゴリーとして定義しているのは「人種」「民族」「出身地」「信仰」「性的指向」「性別、ジェンダー、性同一性」「障害、病気」です。言い換えると、この範囲にない表現は差別として認めないってことです。条約であれ、国内法であれ、こういうカテゴリーを明記しないと制限がなくなり、判断ができなくなりますから、ここまで明記しているFacebookの姿勢は何も間違っていない。
このような規定もあります。
このような話題に関連して、ユーモア、風刺、社会的主張を表現するのはかまいません。誰もが実名を使う場であれば、1人1人が責任を持って発言していただけるものと弊社は信じております。そのためFacebookページの所有者の皆様には、Facebookポリシーに反してはいないが配慮を欠くコンテンツに対して、投稿者の名前やFacebookのプロフィールを関連付けていただくようお願いします。この種のコンテンツをシェアする際には、それを目にする人々への配慮をどうぞお忘れなく。
これらの規定をもって「差別か風刺か」と朝日新聞が表現するのはそう大きくは間違っていない。朝日新聞自身が「差別か風刺か」と判断しかねているのではなく、Facebookが削除する基準がそうなっていることを指し示している限り。
それをタイトルにもっていったのはやはり軽卒だったろうと思いますが、では、現実にはすみとしこのイラストはそうも判断が難しいものかどうかを検討してみましょう。
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