松沢呉一のビバノン・ライフ

冗談とフィクション-朝日新聞を添削する 6-(松沢呉一) -2,778文字-

「シャルリー・エブド」は扇動しているのか?-朝日新聞を添削する 5」の続きです。

 

 

冗談で失職した例

 

vivanon_sentence「風刺」と並び、「冗談」をFacebookは差別表現から除外しているわけですが、たしかに差別をネタにした冗談は私らの日常にも存在していてます。

この騒動を覚えているでしょうか。

失言ツイート炎上で即解雇、米メディア企業の広報部長

2013年12月23日 17:49 発信地:ワシントンD.C./米国

【12月23日 AFP】マイクロブログのツイッターで先週末、米インターネット企業の広報部長を務める女性の個人アカウントが後天性免疫不全症候群(エイズ、HIV/AIDS)に関する不適切な投稿をめぐって炎上し、この広報部長が解雇される騒ぎに発展した。

米インターネット企業「IAC(InterActive Corp)」の広報部長だったジャスティン・サッコ(Justine Sacco)氏は、南アフリカへ向かう飛行機に乗る直前、ツイッターに「これからアフリカに行きます。エイズにかからないといいな。というのは冗談よ。私は白人だもの!」と投稿した。

IACは人気ウェブサイト「Match.com」や「Dictionary.com」「OkCupid」「Vimeo」などを所有する。サッコ氏の投稿は、ツイッターユーザーらの激しい怒りを買った。

米メディアによれば、サッコ氏の投稿時のフォロワー数は200人ほどだったが、ソーシャルニュースサイト「バズフィード」の担当者が問題のツイートをリツイート(拡散)したのがきっかけで注目が集まり批判が殺到。機上の人となったサッコ氏がインターネットにアクセスできずにいる間に、ツイッターでは「#JustineSacco」や「#HasJustineLandedYet(ジャスティンはまだ着陸していないのか)」のハッシュタグが登場し、米、欧、南アフリカを中心に注目を集めた。

またIACは騒動を受け、サッコ氏の「侮辱的な発言は、IACの見解と価値観を反映したものではない」と述べるとともに「この問題を極めて深刻に」とらえていると発表。サッコ氏との「決別」を表明した。

南アフリカに到着したサッコ氏は、何もコメントしないまま問題のツイートを削除していたが、22日になって南アフリカの主要英字紙スター(The Star)と米ABCニュース(ABCNews)に謝罪声明を出した。

「私がどれほど申し訳ないと思っているか、そして私の不必要で不注意なツイートで傷つけてしまった南アフリカの人に私がどれほど謝罪しなければならないか、言葉で表現することはできない」と述べたサッコ氏は、南アフリカは父親の出身国であり、自分が生まれた国でもあると釈明。「私は南アフリカとのつながりを大切に思い、頻繁に訪問している」「私が生んだ痛みに対して、とても申し訳なく思っている」などと述べている。

(略)

(c)AFP/Carlos HAMANN

AFPBB NEWS

 

 

当時、この記事をさらりと読んで、「今時こんなアホなことを言う人がいるのか」と呆れたものです。しかし、さすがにこんなアホなことを本気で言う人はいなかったようです。

 

 

一人歩きした冗談

 

vivanon_sentence渡辺由佳里「インターネットで他人を血祭りにあげる人々」にその事情が詳しく書かれています。

このコラムでは、ネットで他人を攻撃することの快楽に酔う人たちを俎上にあげています。「詳しい事情を確認することよりも、叩くことを優先する人たち」はすべてこのタイプだとしても間違いではないでしょうが、おそらく多くの人たちは、悪意があるのではなくて、これが冗談であることに気づけていなかったのでしょう。

元のツイートはこれ。

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Just kiddingというのは言い訳っぽいニュアンスのようです。言ってはまずいことを言ったあとで「冗談、冗談」とごまかすような感じですかね。「冗談、冗談、大丈夫だよ」とかわしておいて、「だって、私は白人だもん」と落とす冗談なわけです。

と解説のもとで読めば「このくらいの冗談はいいだろ」と受け取れますが、その解説がなされないと、また、その人のことを知らないと、「ただのアホ」とも思えてしまうし、事実、そう思われた。

TwitterやFacebookに彼女のアカウントは残っていますが、今は使っていないよう。この発言をヘイトスピーチだとする記事も、訂正されないまま残っていて、酷だと思わないではいられません。

 

 

フィクションにおけるヘイトスピーチ

 

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こういう冗談は私も言うことがありますし、他の人が言うところを聞くこともあります。たとえば焼肉を食っている時に、在日のメンバーが先に肉をとろうとしたら、「在日特権だろ」と突っ込むようなことです。

 

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