松沢呉一のビバノン・ライフ

闇の女とは誰のことであったのか-「闇の女たち」解説編 1-(松沢呉一) -2,784文字-

 

『闇の女たち』の原稿完成

 

vivanon_sentenceやっと文庫『闇の女たち』の原稿が終わりました。疲れましたが、自分自身、いい内容だと今は思えているので、充実感があります。半年後にどう思うかはまた別として。

まだまだ作業は残ってますし、新潮社はチェックが厳しいので、いっぱい直しが入ると思いますが、一段落つきました。発売は3月だったと思いますが、忘れました。

このあと、仕事のような、仕事じゃないようなことで東京を一週間ほど離れなければならんので、その前にできるだけたくさん「ビバノンライフ」を更新しておきます。

内容はなくても、原稿を書くのが早いことが自慢の私でありますが、今回は時間がかかったなあ。一ヶ月もあればできると思っていたのですが、第二部を急遽追加することになって、純然たる書き下ろしでもないのにトータルで三ヶ月以上かかってます。第一部と第二部で500ページ以上ある大著でありますので、二冊分作ったようなものであり、そう考えるとこんなもんかIMG_2701

でも、こんな厚い文庫、誰が買うんだべ。第一部のインタビューは、1本を除いて、1990年代から2000年代初頭のものです。ずっと続けたかったのですが、街娼というテーマは受けが悪く、掲載できる雑誌もあんまりないですから、街娼取材は挫折してしまいました。手間はかかるわ、金はかかるわ、読む人いないわ。

「ビバノンライフ」でも、この本のための準備という意味合いもあって、街娼インタビューを「循環湯シリーズ」で出してましたが、やっぱり受けが悪い。購読者でも読んでなかった人が多いと思います。

受けの悪いインタビューをいっぱい集めたところでどんどん受けが悪くなるだけじゃないかと思うのですが、歴史的背景がわかるようになってますから、こうなって初めて面白さや意義に気づける人たちもいるだろうとは期待しています。

表紙は「りべらる」の表紙や挿絵を担当していた中尾進の絵がいいと編集者にお願いをしていますが、まだ決まってません。「街娼をもっとも美しく描いた画家」と私は中尾進を評してます。もう亡くなってますが、新潮社の仕事もしばらくやっていたので、たぶん遺族と連絡はとれるでしょう。原画が残っていなくても、雑誌から拾えばなんとかなりそう。

第一部の50代、60代、70代のインタビューには合わないですけど、あの時代の雰囲気を伝えられそうに思います。

※全然今回の文庫向きじゃないですが、参考までに「りべらる」の初期です。

 

 

街娼とは?

 

vivanon_sentence第一部のインタビューは文字起こししたものから全部やり直しています。第二部「日本街娼史」は未発表の原稿があって、それをそのまま使いつつ、あれやこれや調べ直したため、時間がかかりました。その内容は一部「ビバノン」のノガミ・シリーズでも出してます。

第二部はざっと半分くらいに削っているので、削った部分を「ビバノンライフ」で発表していこうかとも思っているのですけど、今回改めて感じたことがあります。言葉です。言葉の意味が安定しない。今後説明していく際にも誤解を生じそうなので、ここでまとめておきます。

たぶん今現在「街娼」と言った時IMG_8528にそれほど誤解は生まないと思います。路上に立って、「お兄さん、遊ばない?」と声をかける売春の原初的一形態。映画や小説でも見たことがありましょうし、海外で夜ほっつき歩いていると見かけますね。ストリートガールです。

声をかけると捕まるので、チッチッチッと舌打ちをしたりもします。あれは昔から「鼠鳴(ねずなき)」と言って、世界共通。あと、タバコの火を借りてきっかけを作るのも世界共通。

今現在、日本では外国人がほとんどですが、今もまだわずかに日本人街娼が残っているわけです。外国人の場合はブローカーが間に入っていたりして面倒ですけど、日本人の場合は間に人が入らないので、よく売春に対して言われる「搾取」というものがありません。

インタビューでも語られていますし、「日本街娼史」ではその経緯まで触れていますが、地域によってはヤクザの仕切りです。一方で、今なおヤクザがからんでいない場所もあります。昔のまんま。

戦後間もなくは街娼たちは自分らでグループを組織していて、ヤクザや愚連隊を寄せ付けませんでした。この時代は、リーダーの生活費や強制入院させられた時の治療費・生活費のため、グループでいくらかの金を徴収していることもありましたが、最大1割程度です。その金はメンバーが買う闇のタバコの売上でまかなっていることもありました。その場合は供出金ゼロ。

ヤクザがからまず、搾取もないのですから、それを売春否定の根拠としている人たちは街娼を推奨していいはずです。GHQも当初はそういう方針を出していました。しかし、売防法以前に潰されていきます。なぜか。とういうのも本書のテーマのひとつです。

その生き残りが今現在もいます。実際に当時からやっていた人たちも数名インタビューには出てきます。

※図版はわりとよく知られるカストリ雑誌。内容とは関係なく、雰囲気もんで出しておきました。

 

 

「パンパン」と「闇の女」

 

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私はふだんこの人たちを「直引き」と呼んでいて、たぶん多くの人は「街娼」は直引きのことだと受け取るでしょう。「立ちん坊」「たちんぼ」とも言います が、この用法は比較的最近のものです。1970年代くらいからだと思います。それ以前は別の意味なので、注釈なく使うと混乱します。

 

 

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