松沢呉一のビバノン・ライフ

妓楼のランク-「吉原炎上」間違い探し 4[ビバノン循環湯 78] (松沢呉一) -3,027文字-

公娼と私娼-「吉原炎上」間違い探し 3」の続きです。

 

 

大店・中店・小店

 

vivanon_sentence今回はドラマ「吉原炎上」の間違いについての話は出てこないが、次回以降、重要な意味を持つ妓楼のランクを説明しておく。

ドラマ「吉原炎上」の中でもいくらかそれがわかる箇所が出てくるが、明治以降、遊廓の妓楼は、「大店(おおみせ)」「中店(ちゅうみせ)」「小店(こみせ)」の大きく三種に分かれていた。現在のソープランドで言えば、高級店、大衆店、格安店に該当するが、意味合いは相当に違う。

「おお・ちゅう・こ」という読みは音訓が混在していて落ち着きが悪いが、「なかみせ」だと「仲見世」と混同するためだと思われる。仲見世は、吉原のメイン通りの名称。浅草など、この名称が残っている場所は今もよくある。

これらのランクは、単に値段の違いを意味するものではない。建物の構造自体が違っていて、間口の広さと籬(まがき/格子のこと)の大きさで、店の格がわかるようになっており、大店のことを「大籬(おおまがき)」と言い、小店を「小格子(こごうし)と言う。客としては、値段を聞かずとも、建物を見れば、だいたいいくらくらいの店なのか判断でき、初めて吉原に来た客でも戸惑うことはない。

それ以外にも、さまざな点で違いがあって、作法までが違うので、そこを確かめないと場違いな客になってしまう。だからこそ、建物でわかるようにする必要があったのだろう。

 

 

「吉原細見」に見る中米のランク

 

vivanon_sentence今の風俗店以上に、格の違いには意味があり、吉原のガイドブックである「吉原細見(さいけん)」でも、どこがどのクラスの店なのかわかるようになっていた(細見は複数の版元が出していて、それによっても仕様が違い、時代や地域によっても違うのだが)。

通りによってもある程度ランクが決まっており、大店は大門の近くや仲見世通りの近くにあり、その間の路地や端に行くとランクは落ち、両サイドの端は「河岸」(かし)と呼ばれる(原作に出ている地図には「川岸」とあるが、これは誤字だろう)。吉原を囲む「おはぐろどぶ」を河に見立てたものである。

ここにある妓楼は「河岸店(見世)」と呼ばれ、東側の河岸は、ドラマにも出てくる「羅生門横丁」「羅生門河岸」と呼ばれる地域である。ここには「長屋」「チョンチョン格子」などと呼ばれる最下層の店があった。

DSCN5780「羅生門」という呼び名は、女たちが格子から手を出して客を引っ張ったことから、羅生門の追いはぎになぞらえた名称と言われる。

客を呼ぶのは「妓夫」(ぎふ/ぎゆう)、「妓夫太郎」(「牛太郎」とも書く)と呼ばれる男たちの中で「立番(たちばん)」という役割の仕事である。今のソープランドでも、店の前に立つのはマネージャーだったりするように、立番は下っ端にはやらせない。それだけ重要な仕事である。

立番がいた時代には、女たちは直接客を引くようなことはせず、せいぜいキセルを客の袖にひっかけて呼び止める程度であった。その立番も、明治時代には客に直接触れることは禁じられていたのだが、末端の店では女が直接客の袖を引くこともあったのだろう。

 

 

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