松沢呉一のビバノン・ライフ

娼妓の避妊-「吉原炎上」間違い探し 15[ビバノン循環湯 89] (松沢呉一) -3,354文字-

盲信が事実を歪ませる-「吉原炎上」間違い探し 14」の続きです。

 

 

謎の墓

 

vivanon_sentenceデマはあってはならないとして、言葉の用法や門の形なんてものは、「時代考証が甘い」という話に過ぎないかもしれない。ここまで書いておいてナニだが、私自身、たいした話ではないと思っている。

ドラマ「吉原炎上」に対する批判は、これ以降が重要であり、閉じられない門を閉じたとのデマを広げた人々に同調するような精神のありようがこのドラマにはふんだんに見られるのである。ざっくり言うなら、「道徳が史実をねじ曲げていないか」ってことだ。さらに言うなら、「もっと悲惨に、もっと死ね」との願望が、ありもしないものを登場させていないか。

ドラマの中で、娼妓の一人が子どもを埋めた土盛りを示すところがある。はっきり言っているわけではないのだが、子どもを出産して間引いた(殺した)ことを示唆しているようだ。それはひどい。それは悲しい。

しかし、ちょっと待て。明治の遊廓で、そんなことがあり得たのか? あるいは江戸時代でさえ、そんなことがあったのか?

もし間引いた子ではないのだとすると、一体誰の墓だろうか。堕胎した水子の墓なのだろうか。そんなわけがない。

 

 

避妊方法さまざま

 

vivanon_sentenceそのことを論じる前に、そもそもコンドームが普及していなかっIMG_6363た時代、また、フェラでフィニッシュなんてことのなかった時代、娼妓たちはどのように避妊していたかについて見ておくとする。

私もこのことが気になって、以前、メルマガ「マッツ・ザ・ワールド」用に調べたことがあって、いくつかの方法の中で、ポピュラーなのが詰め紙である。膣の中に紙を詰めるのである。

これを「込め玉」「底根」「揚底」とも呼んだ。生理の際にも同様に詰め紙をしていたので、女たちにとっては手慣れたものだ。

これについては中野栄三著『珍具考』(第一出版社・昭和26年)に比較的詳しく出ている。

 

 

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