松沢呉一のビバノン・ライフ

娼妓になる前の性病感染率-「吉原炎上」間違い探し 20[ビバノン循環湯 94] (松沢呉一) -3,334文字-

遊廓に脳梅はいたのか-「吉原炎上」間違い探し 19」の続きです。

 

 

 

この数字は本当なのか?

 

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「貧しい家の娘が身売りされ、時には騙されて、事情も知らないまま遊廓に連れられてきて、処女のまま泣きながら客をとらされる」という遊廓の物語は、それに欲情する人々のファンタジーであると前回書いた。変態たちのポルノである。

「処女だったから遊廓はけしからん、非処女だったらよし」なんてことはないわけで、処女であろうとなんであろうとどうでもいいのだが、「事実をまず知る」「遊廓をめぐる間違いを正す」「議論はそれから」というのが本シリーズの趣旨であるので、これについても数字で確認をしておく。

スクリーンショット(2016-01-03 20.17.36)ここまで述べてきたように、娼妓になる際には身体検査があった。その時に性病がひっかかって不合格になるのが多数いた。

その数字がどのくらいあったのかが上村行彰著『売られ行く女』(大鐙閣・大正7年)に出ている。著者は、大阪で娼妓になる際の身体検査を担当していた医師であり、大阪府保健衛生局の衛生課長を兼務していた人物である。その数字は相当までに信用できよう。と言いつつ、今なお私はこの数字が信じられないでいるのだが。

大阪府では、それまでの八年間で一万八千四百四十一人が新規に娼妓として登録されている。これは身体検査を合格した数で、年間の平均は二千三百五人になる。これに対して、「絶対的不合格者」の数は五十六人であった。絶対的不合格は、心臓病、結核、陰部発達不良、癩病など、治療が困難な病気が理由になったもの。

対して「一時的不合格者」の数は年間で延べ四、五百人。少ない時で二百人、多い時で九百人とある。延べとあるのは、合格するまで繰り返し身体検査を受けるのがいるためだ。実数ではないにしても、毎回五人から六人に一人程度は一時的不合格者がいた。

これは治癒が見込める他の病気を含めてのことで、検査を受けた総数の12%程度が性病だったとある。そのくらいに性病は蔓延していたのである。

働き始めて以降、定期の検黴で梅毒感染が発見されるのは、ほとんどの年で平均1%台、多い年でも2%をわずかに超える程度である。前回見た徴兵検査で、性病感染は平均で数%だったことに比しても、10%を越えるのはあまりに多く、「本当か」と疑わないわけにはいかないのだが、『売られ行く女』には中野生清という人物による調査の数字も出ている。

こちらは十年間で二万八千二百七十一名の新規登録希望者ーを調べ、梅毒が見つかったのが四百九十人、淋疾が二千四百九十八人、軟性下疳千三百八十七人、合計四千八百二十五人になり、こちらの調査では全体の一割七分、つまり17%に達したとある。

症状を自覚している場合は検査を受ければ不合格になることが予期できる。そのため、公娼を諦めて私娼になるか、先に病院に行って治療して出直すのもいるはずなのだから、実際にはもっと感染者は多いというのが著者の見方だ。

 

 

娼妓希望者に性病感染者が多かった事情

 

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なぜそうも娼妓希望者には性病に感染していたのが多かったのか。

 

 

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