松沢呉一のビバノン・ライフ

パンパンをどう評価するのか-マイク・モラスキー編『街娼』 1-(松沢呉一) -3,112文字-

 

マイク・モラスキーのパンパン観

 

vivanon_sentence昨年12月、Facebookで、マイク・モラスキー編『街娼 パンパン&オンリー小説集』を取り上げたました。

長くなりますが、以下。

 

闇の女たち』第二部「日本街娼史」が大詰めなので、Facebookも全然見てません。大詰めと言ってもまだ大量に削らなければならないのですが、「あとは削るだけ」というところまでもうちょっとです。

そういえば先日、新潮社の担当編集に聞いたところによると、焼け跡の街娼を描いた小説のアンソロジーが出たとのこと。マイク・モラスキー編『街娼』だすな。

私の「日本街娼史」では小説はいくつかしか取り上げておらず。ここに出ている小説で読んだことがあるのはひとつだけだと思います。バッティングなし。

それにしても先に出されてしまってちょっと悔しくありつつ、街娼に興味を抱く人なんてほとんどいないですから、こうやって先行してマーケットを広げておいてくれるのはありがたい。遊廓や赤線については興味を抱く人がいても、ホントにパンパンは受けが悪いのです。

映画「ヨコハマメリー」が公開されて以降も、そんなに興味を抱く人が増えたとは思えず。メリーさんという特殊な個人がいたとしかとらえられていないのだと思います。ああいう洋パンが全国の進駐軍の基地周辺にはそれぞれ千人単位でいたのです。

これとノガミ(上野)やジュク(新宿)のパンパンを筆頭とする和パンはまた別。赤線の女たちもまた別。「日本街娼史」はその辺の違いを懇切丁寧に説明しています。

数日前にも「生活のためにやむにやまれず街に立った」とパンパンを評したコメントをしてきた人がいますが、違いますから。そういう思い込みをぶちこわすのが『闇の女たち』の役割です。

もちろん、そういう層もいたのですが、とくに洋パンは、援助交際層に近いのです。あるいはバンドのグルーピーにも近い。今も基地に群がるブラザー系と直結しています。和パンはレディースみたいなもん。戦前の不良少女団と直結。

その点、編者のマイク・モラスキーさんはちゃんと理解しておりますね。

 

多くの女性がまだモンペや地味な和服を着ていたなかで、
パンパンたちは派手な原色のドレスを身に纏い、
ラッキーストライクを吹かし、ハイヒールを鳴らして街を闊歩していた。
そうして堂々と占領軍に声をかける彼女達はたくましく、
いち早く新しい世の中に順応しているようにも映っただろう。
闇市が戦後という新時代を象徴する風景だとしたら、
パンパンは戦後最初の〈新人類〉だといってよい。

 

これが実相。全部が全部ではないにせよ、たくましく、かっこいい女たちでした。「ヨコハマメリー」を観てもわかるでしょう。あの人が特別なのではない。私 がパンパンに魅せられ、そこにつながる老街娼や老男娼たちのインタビューをしてきたのも、パンパンのこのような姿を知ったからでありました。これも全部が全部ではないですが、今の街娼たちにも驚くほどかっこいい人たちがいるのです。

なぜこの実相が忘れられ、「RAA崩壊で投げ出された国家の被害者」だの「生活のためにやむにやまれず街に立った」だのといった物語に収斂されてしまったのか。これが『闇の女たち』のもうひとつの重要なテーマです。

あくまでこれは第二部の「日本街娼史」の話。第一部の街娼や男娼、客引きのインタビューについては、第二部とリンクはするのですが、「殺人犯と旅行をした街娼」「最高裁まで闘った街娼」「レズビアンの妻とその愛人と同居する男娼」「ホストクラブに数千万注ぎ込んだ街娼」「赤線時代から客引き一筋」といった話を読んでビックリしたり、泣いたり、笑ってりしていただければよろしいかと思います。

 

 

パンパンが投げかけるテーマ

 

vivanon_sentence以来、この『街娼』という本が気になりつつも、『闇の女たち』が終わるまでは我慢しました。影響されてしまうことを避けたかったので。

先週土曜日、『闇の女たち』のゲラチェックを終えて、担当編集者に渡しました。四月下旬発売で決定です。ここまで至れば「販売担当が難色を示してまして、今回の話はなかったことに」ということはさすがにないだろうと思います。

その際に「お疲れ様」の意味なのかなんなのか、編集者が『街娼』を私にくれました。そろそろ買おうかと思っていたところだったので、ナイス・タイミングです。

 

 

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