松沢呉一のビバノン・ライフ

萬華という街-萬華再訪 1-(松沢呉一)-2,384文字-

 

萬華生活のために

 

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萬華は日本語読みで「ばんか」。中国語読みでは「ワンフア」です。「ワンファ」ではなく、「ワンフア」。

萬華の旧地名は艋舺。中国語読みで「バンカ」。今も大通りの名称、公園の名称などで艋舺は使用されていて、地名としてもなお艋舺としているものがあります。

「ばんか」という読みだとどっちなのかわからないため、私は萬華を「ワンフア」と言っています。書き文字では混乱はないわけですが。

昨年12月に萬華に初めて行って、「『闇の女たち』が売れたら、その印税で一ヶ月くらい住みたい」と思ったのですが、こういうのって旅の気分としてはよくあることです。もう一回行くと、「なんでああもよく見えたのかな」と不思議に思う。

旅の恋も同じ。「なんでこんなのを好きになったのかな」と自分で自分が信用できなくなる。

そうなるとまずいので、長期間住む前に、もう一度見ておく必要があります。

その結果、いよいよ萬華が好きになりました。前に「台北に住みたい」と書きましたが、台湾が好き、台北が好きというより、萬華が好きなのだと今回改めて思いました。

歌舞伎町の好きな部分、浅草の好きな部分、上野の好きな部分を取り出して純化させたような街です。混沌が調和しているとでもいいますか。わかりにくいですね。

よく言えば気取らない街。悪く言えば欲望剥き出しの下品な街。私にとっては本当に居心地のいい場所なのです。

 

萬華から学ぶ

 

vivanon_sentence萬華には街娼がたくさんいて、性風俗店もたくさんある。その萬華が好きだということから、おねえさん方とヤりに行っていると思っている人もいるみたいですが、全然違います。街娼をああも追い続けたのと同じで、自分の欲望と関係がないのです。性欲ではなく、興味だの関心だの好奇心だのは無闇にかきたてられるとして。

実際、今回も前回もそういうことは一切してませんし、したいと思ったこともない。私が強くこの街に惹かれているのは、そういうことではないのです。

この社会が軽蔑しきっている街娼のような存在から学ぶことがあるということ自体が理解しにくいのでしょうけど、『闇の女たち』を読んでくださいな。読んでもわからん人にはわからんかもしれないけれど。

それと同じく、ホームレスや物乞い、売春婦がいっぱいいて、殴られて血を流している人がいて、パトカーや救急車がひっきりなしに走り、薄汚く、品のないあの街から学べるものがあると確信しているのです。

※警官の横で鼻を押えているのは、たぶん若い男に殴られたようで、鼻血を出している人。左のおっちゃんがファイティングポーズをしているように見えますが、無関係。パトカーや救急車が走り回っているのは、ひとつは喧嘩。ひとつは交通事故。ゴミゴミした街で、バイクや自転車も多いため、交通事故が多発しているみたい。もうひとつはホームレスの行き倒れ。全部、その様子を確認しました。

 

 

萬華の場所

 

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地下鉄の駅で言うと、台北駅の隣の隣にある龍山寺駅が萬華の最寄り駅です。便利なところなのです。

まだ全部は完成していないですが、台北駅はきれいに生まれ変わり(右の写真)、その周辺も現在整備中です。

台北駅前にはデパートやショッピングビルがあって、この周辺が台北の商圏の中心であり、銀行や企業の建物が並び、この南側に、立法院(国会)、裁判所、官公庁、大学なども集中しており、萬華とは全然違う。

大きな公園もありますが、たぶん街娼が立ったりしはない。

台北駅と萬華の中心地にある龍山寺駅との間にあるのが西門駅。龍山寺駅から歩いてもそんなに遠くはない。20分くらいかな。

西門は東京で言えば渋谷に当たる若者の街です。実際、若い世代が多くて、ファッションビル、レンガ造りのライブハウス(下の写真)、服屋、雑貨屋が並んでいます大きなホテルもあります。

 

 

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