松沢呉一のビバノン・ライフ

初日はゴキブリとともに-萬華再訪 4-(松沢呉一)-2,237文字-

旅はマゾ汁を増量させる-萬華再訪 3」の続きです。

 

 

日本のラブホの特殊性

 

vivanon_sentence深夜、徘徊している途中で、いくつかホテルは見つけていたのですが、なんか怪しいのさ。なにしろ街娼がいたるところにいる場所です。ラブホ仕様のホテルかと思います。

ここで解説。ラブホテルという存在が、一般のホテルと法律上、はっきり区別されているのはおそらく日本くらいじゃなかろうか。他にもあるかもしれないですが、そういう国は数えるほどしかないはず。

日本では、ラブホは旅館業法とは別の風営法で規定されているため、一般の旅館やホテルではできないことがラブホではできる。ソファを置けたり、休憩表示を出せたり、対面の受付をしなくてよかったり。

その代わり、一般のホテルができることをラブホではできない。学校や病院の近くで営業できなかったり、未成年者が利用できなかったりする。

そのため、ラブホはラブホとしての発展をするしかなく、だからこそ、一目瞭然の外観になり、内装になり、設備になり、サービスになってセックス目的の純化が進む。規制をするが故にラブホはラブホらしくなるわけです。

そこがなんでも規制する日本の不自由さでありつつ、そこから特殊な発展を遂げるのが面白さでもあります。

※写真は歌舞伎町のラブホ街

 

 

ラブホ仕様のホテル

 

vivanon_sentence対して、その区別のない国では、誰にでも対応する。米国のモーテルもそうですね。家族連れも利用すれば、セックス目的のカップルも利用する。

普通の設備、普通の内装、普通のサービスのホテルにセックス目的のカップルが泊まっていいだけではなくて(日本だって泊まっていいわけですし)、日本ほど明確ではないにしても、ラブホ利用者を考えた設備、内装、サービスになっているホテルというものもあって、ここではそれを「ラブホ仕様のホテル」とします。

ソウルでも、ラブホ仕様のホテルに一般客は泊まれるのですが、「ラブホ仕様度」が高くて、日本と同じく中が見えにくいゴムのビラビラ(あれもラブホ業界では暖簾と呼ぶので、暖簾に目がない私の研究対象)がついていて、窓がなかったり小さかったり、ネオンが派手だったりするホテルがいっぱいありました。

「どっちなんだろう」と迷う外装のホテルもあって、区別する目印を韓国で知り合ったおっちゃんに教えてもらったのですが、長くなるので省略。

萬華のホテルはそこまで露骨ではないながら、入口に各部屋の様子が表示されたパネルがあったりもします。私が泊まるのは、そういうホテルでもいいのですが、普通のホテルより値段が高いのではないかと思って二の足を踏んでしまいます。

 

 

初日はゴキブリとともに

 

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萬華を一時間ほど放浪して、龍山寺の前で、ふと見上げたら、ホテルがありました(右の写真は翌日早い夜に撮ったもの)。

ビルの11階にホテルがあります。古いですけど、立派なビルです。

休息(休憩)の料金も出ていたし、街娼がわんさかいる場所ですから、ラブホ仕様のホテルであることは間違いないのですが、そろそろ疲れと寒さと睡魔で限界です。

中に入ると、ボロいホテルでありましたが、文句は言うまい。1,000元ですしね。3,500円くらい。

11階なので、眺めも悪くない。下の写真に見えているのは艋舺夜市の通りです。夜市は5時間ほど続くのですが、それ以外の時間はただの道。

飲食店も入っているビルなので、チャバネゴキブリがいっぱいいましたけど、そういうのは気にならん。東京のうちにもいますし。うちにいるのはクロゴキブリですが。

ラブホ仕様ですから、ダブルベッドで快適です。コンドームだってありますから、退屈したら、風船にできます。

すぐに寝たので、ゴキブリとコンドームの写真は撮り忘れました。

この時間からだと、午後2時までいていいそうですが、続けて泊まる場合は、昼間の時間分が加算されます。昼の時間は休憩用の別料金をとって回転させているわけです。さすがラブホ仕様。

 

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