松沢呉一のビバノン・ライフ

GHQが許可しなかった街娼の本-「闇の女たち」解説編 9(松沢呉一)-2,137文字-

パンパンの全体像を知る調査-「闇の女たち」解説編 8」の続きです。

 

 

『闇の女たち』校了

 

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新潮社の倉庫があった場所にできたla kagu(ラ・カグ)って、けっこう人が入っているんですね。飯田橋駅に近いならともかく、あんな場所にあんなシャレオツな店舗が集まったところで人なんて来ないと思っていたのですが、昨日、覗いたら、平日にもかかわらず、ボチボチ人がいました。意外。

昨今、神楽坂は現役の花街として外国人観光客にも人気だそうですし、神楽坂の裏通りに入ると、古い神楽坂と反発しないように新しい動きを創りだしている店舗を見ることができます。

それらを眺める延長で、神楽坂を上り詰めた先にあるia kaguまで来る人たちがいるようです。

飯田橋から神楽坂にかけて、まだ銭湯が三軒ほど残ってますけど、銭湯に行くついでに、洗面器を抱えてla kaguに立ち寄る人はあんまりいないと思います。

んなことはどうでもいいとして、昨日、新潮社に出向いて、『闇の女たち』の念校をチェックしました。再校以降は編集部にお任せにすることがよくあって、念校なんてものを見たのは初めてかも。

念校の段階でもなおチェックすることが多数あったのですが、ともあれ無事終了。著者の仕事もこれで終了。やっと結末をつけられました。早く萬華に行きたい。

 

 

これからのテーマ

 

vivanon_sentenceこの本の元になったインタビューをやり続け、元になった原稿をコツコツ書き続けていたのは1990 年代後半から2000年代初頭にかけてです。やり始めからカウントすると18年くらい経ってます。

それ以降にやったインタビューも収録されていますし、それ以降に調べたこと、考えたことも反映されていますので、足掛け18年と言っても、そんなには間違ってない。

文庫にする作業に本腰を入れたのは、昨年の8月だったかな。それからでも7ヶ月か8ヶ月。

これだけをやっていたわけでないにせよ、あまりに長かった。単行本2冊分ですから当然とも言えるのですが、元になった原稿はあったわけで、にもかかわらず、こんなに時間がかかるとは想像してませんでした。

4月25日、高円寺パンディットで予定されている刊行イベント「闇からのメッセージ」がまだ残ってはいますけど、あれは二部がメインで、消え行く日本人街娼にこだわってきたことについてはもう終わり。

新しい年度が始まったことでもあるので、今後は「今、セックスワークをどうとらえるか」にスライドします。頭を切り替えないとね。

なお、遊廓についてはまだ調べきれている感触がないので、もうしばらく続きますし、萬華の街娼たちについてはこれから始まります。

 

 

不許可になった『夜の女』を私が入手できた理由

 

vivanon_sentence「これで日本人街娼へのこだわりはすべて終了」と思っていたのですが、担当編集者が気になるものを見せてくれました。

ちょうど昨日、新潮社に行く直前に更新した「パンパンの全体像を知る調査」に出てきた山門王吉著『夜の女』のコピーです。原稿との照らし合わせのために該当ページを国会図書館でコピーをしてきたのです。

パンパンの全体像を知る調査」では、この本は検閲で不許可になったため、こっそり孔版(ガリ版刷り)で作り、地下本として出したのではないかと書きましたが、ゲラの段階でも孔版でした。

私らの世代は学校の配布物や各種ビラで馴染みがありますが、孔版印刷は蝋紙の耐久性がないため、大量に刷ることができません。最大でも二百部程度の少部数の印刷しかできない。同じものをさらに作るためにはもう一度原紙を切るところから始めなければならない。

そんな程度の部数だったら、黙っておけばわかりゃしないと思うのですが、それでもGHQ検閲を受けたのですね。そして、不許可になった。

国会図書館にも現物がなく、プランゲ文庫からデータを借りるしかないのに、なぜ私は現物を入手することができたのか。

 

 

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