松沢呉一のビバノン・ライフ

GHQの検閲と発禁-「闇の女たち」解説編 10(松沢呉一)-2,110文字-

GHQが許可しなかった街娼の本-「闇の女たち」解説編 9」の続きです。

 

 

内務省の検閲とGHQの検閲

 

vivanon_sentenceそれなりに根拠はあるとは言え、以下は推測であり、正確なことはさらに調べた方がよさそう。

戦前、内務省の検閲があった時代もそうだと思いますが、原稿の段階でチェックをしたところで、いくらでも直せてしまうし、そうじゃなくても、校正の際に加筆もするのですから、検閲に出すものは校正が済んだ最終段階のものじゃなきゃいけなかったはずです。そこからは一切手を加えてはいけない。

通常は出版物の完成品を提出する。事前検閲ですから、出荷前に提出する必要があって、見本刷りができた段階で提出する。しかし、そうなると、発禁処分が出る頃には本は出回っていて、回収すると版元の損害が大きいため、ゲラを提出することも認められていたのだと思います。

プランゲ文庫に保存されている白川俊介著『闇の女たち』はゲラの段階で不許可になったため、印刷に至らなかったのではなかろうか。

あるいはすでに印刷が終了しながら出荷できずに廃棄されたのかもしれないですが、こういう場合でも関係者が保存していたものがのちに古書市場に出ることがあるので、それが見当たらないってことは完成にまで至らなかったのだろうと思います。

戦前、伏字だらけ、削除だらけの本があるように、不許可になった場合は直しを入れて提出し直すわけですけど、占領下では伏字にしても認められなかったので、不許可になったらそれまで。まったく別のものとして出し直すしかない。内務省の検閲より厳しかったのだろうと思われます。

 

 

著者の白川俊介という人物

 

vivanon_sentence白川俊介という人物については新聞記者ということしかわからず、その名前は私の記憶にもなかったのですが、検索をすると、いくつかの雑誌に原稿を書いていたことがわかります。

だったら、私も読んでいるかもしれないと思って、自分の書いたものを検索してみたら、雑誌「千夜一夜」に書いていることがわかりました。昭和二十年代に、「千一夜」という長期にわたって出ていた雑誌があるのですが、それとは別のチープな雑誌です。混同させることを狙ったタイトルでしょう。

昭和二十年代後半の小型本なので、カストリ雑誌ではないですが、その流れを汲み、発行年も号数も記載されていない、いい加減な作りの雑誌です。

同姓同名の別人じゃなければ、確実に私は白井俊介の原稿を読んでます。何を書いていたのかまでは記憶になく、私自身、記録として執筆者の名前を羅列しているだけで、内容までは触れていないため、何を書いていたのかまではわからず、現物も簡単には出てこないのですが、書影があったので、それだけ出しておきます。

中身はともかく、表紙はいいでしょう。「こんなエロ雑誌に新聞記者が実名で書くのか」と驚きましょうが、昭和二十年代だと、媒体を選ばなかった人が多いのです。「メシを食うために、書けるならどこでも書く」という事情もあったわけですが、カストリ雑誌に現役の刑事が現場写真を提供したり、座談会に参加したりもしているくらいで、何から何までアバウトです。

また、この頃は、潰れた雑誌の版が、踏み倒された支払いの代わりに転売されることもあって、雑誌に書いた記事が、本人の知らないまま、別の雑誌に出ることもあり、そういった版を適当につなぎあわせて、表紙だけすげ替えた雑誌もあります。とは言え、しっかりした版元の雑誌の版が外に出ることは通常はないわけですから、もとの雑誌もいい加減ということですけど。

 

 

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