松沢呉一のビバノン・ライフ

発禁の理由がちりばめられた本-「闇の女たち」解説編 13(松沢呉一)-2,625文字-

発禁にされた理由-「闇の女たち」解説編 12」の続きです。

 

 

 

伏字は無条件でNGだった?

 

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前回見た箇所以外にも伏字はあり、そこにも「fill in」と書き込まれています。こちらは「今度〇〇喫茶店につとめることになった」とあるだけです。よく知られる喫茶店名だから伏せたのか、具体名がわからなかったのか(この部分は著者自身が聞いたのではなく、知人から聞いた女の発言)。いずれにせよ、特別に連合国や進駐軍を揶揄するような喫茶店名なんてあろうはずもない。

それでもチェックが入っているってことは、どうあれ伏字はNGというのがGHQの基準だったようです。

それだけで発禁になったのかどうかまではわからないですが、この基準は合理的ではあります。伏せれば、その穴埋めを読者が頭の中でしてしまうし、戦前のように、別刷りの穴埋め表が出回ったりもします。時には「米兵喫茶店」「原爆喫茶」といったように、ありもしないものまで想像する人が出てきてしまう。だったら、全部NGにした方が作業も楽。

今まで意識して読んでいたことがないですが、カストリ雑誌には、伏字は一切ないのかもしれない。伏字さえ残せないのであれば、読者には消されたことを察知できない。予め消された存在は意識しにくいので、この時代のものに伏字がなかったのだとしても気づけないのです。GHQの検閲は内務省の検閲よりさらに厳しく、さらに巧みです。

 

 

なぜ伏字のままにしていたのか

 

vivanon_sentence原稿をチェックしていたのは、日本語ができる米人と、英語ができる雇われの日本人と、どちらもいて、この場合はどっちかわからないのですが、チェックしたものは返却してないのですから、「fill in」というのは、版元に向けてではなくて、「穴埋めしろよ、あほんだら」と独りごちたのだと思います。

ここで不思議に思うことがあります。内務省の検閲であれば、伏字で逃れらることも多かったわけで、その感覚でGHQに挑んだのが間違いですけど、どういう基準でチェックされるのかについては、当時出版界ではそれなりには知られていたはずです。なのに、どうして白川俊介著『闇の女たち』では、伏字のあるゲラを提出したのでしょう。

 

 

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