米兵はウンコで、足の生えた生殖器-「闇の女たち」解説編 14(松沢呉一)-2,014文字-
「発禁の理由がちりばめられた本-「闇の女たち」解説編 13」の続きです。
米兵はうんこ?
白川俊介『闇の女たち』には、発禁になった理由がさまざま見いだせるのですが、決定的な理由になったのは以下かも。
銀座の様子を描写した部分です。
大きな男と、その半分くらいしかない小さな女と、仲よく?腰と腰に手をかけ合って、ぞろりぞろりと金魚のうんこのやうにあとからあとからつづく。
ハイヒール、下駄ばき、ズック靴、種種雑多な女たちの履物だが、服装はまづ大体に於て一致した簡単服に毛の生えた程度のお粗末さ。
人混みの間を一直線に、彼と彼女たちの一組み、一組みが、悠久絶え間なし、と感ずる程の執念き長い列になって、あとから、あとからつづく。人間といふ感じより、寧ろ、生殖器に足が生えて歩いてゐるといった錯覚にさへ陥りかねぬ夜の銀座—
「執念き」は「しつこき」と読ませるのかと思ったのですが、「執念」の形容詞形「しゅうねい」という言葉があるのですね。「しゅうねき長い列」。
「仲よく」にわざわざ「?」をつけているのは、「おまえらはどうせ金でつながっただけの関係のくせしやがって」という嫉妬混じりの蔑視を込めているのでしょう。
ここでは「大きな男と、その半分くらいしかない小さな女」を「金魚のうんこ」「生殖器に足が生えて歩いてゐる」と表現しています。
「金魚のうんこ」は、列がだらだら長く続くことを表現したに過ぎませんが、通常は「金魚のフン」とするところで「うんこ」ですから、なにか別の意味を込めているのではないかと思われかねない。
また、著者は他の記述から考えて、パンパンたちを貶めたいのであって、「生殖器に足が生えて歩いてゐる」としたのはパンパンのみかもしれないのですが、この文章では「彼と彼女たちの一組み、一組み」を指していますから、普通に読めば米兵をも含めていましょう。
実際のところ、米兵をも敵視をしていたのでしょうけど、「米兵はウンコで、足の生えた生殖器」って…。
このフレーズにはさすがにチェックが入っていて、「大きな」「その半分位しかない小さな」という言葉に囲みがあり、さらに文章全体をくくる線があります。
チェックされることを予想してしかるべきであり、著者と版元は甘すぎましょう。
※図版の文章は次のページにまたがっており、そちらも全体に線が引かれている。
出す価値なしと判断された?
複数の伏字があり、「大きな男」を「うんこ」「生殖器に足が生えて歩いてゐる」としただけで発禁にする理由は十分でしょうが、判断の基準に、「質」「価値」「意義」といった点も加味されていたのだろうと思います。
だから、竹中勝男, 住谷悦治共編『街娼—実態とその手記』は見逃された。研究書ですから、部数が少なく、読む人の層が限られるということもありつつ。
(残り 953文字/全文: 2165文字)
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