松沢呉一のビバノン・ライフ

貞操を守れない女は娼婦と同じ-「闇の女たち」解説編 16(松沢呉一)-2,209文字-

戦前から抜けられなかった著者の道徳観-「闇の女たち」解説編 15」の続きです。

 

 

探訪になっていない探訪記

 

vivanon_sentence白川俊介著『闇の女たち』には「“彼女等の職場”探訪記」と称して、都内数カ所でのパンパンの様子を書いている章があって、これがまたひどく薄い。

パンパンが出没した場所として扱われることがまずない地域が何ヶ所か入っていたため、俄然期待したのですが、お話にならない内容でした。

荻窪だけはふたつの話が出ているのですが、どっちもお話にならない。

ひとつはおでん屋の主人に聞いた話です。

そのおでん屋で知り合った酔った男女が店を出ていき、そのあと店主は、男の自家用車の中で二人がいちゃついていたのを見てしまいます。終わり。

その女が街娼だったとの話はどこにも出ていない。金品のやりとりがあったとも書かれていない。なんだ、これ。

 

 

金返せ!

 

vivanon_sentenceもうひとつの荻窪の話は著者がたまたま見かけた男と女の会話です。男が女をくどいていて、女はダンナ持ちのため、断っています。

女は「店に来て」と言っているので、キャバレーの女給かダンスホールのダンサーのよう。なんだ、これ。

どちらも街娼ではない。また、探訪、つまりルポになっていない。自分で足を運んだものではなく、誰かに聞いた話を書いているか、たまたま見かけたことを書いているだけで、取材さえしていない。

雑誌の埋め草記事のレベルです。埋草記事にしても面白くないですし。

他の場所も似たり寄ったりで「米兵はウンコで、足の生えた生殖器」で引用した銀座の様子も、「“彼女等の職場”探訪記」の「銀座編」。あれが「銀座編」の全文です。手抜きにもほどがありましょう。

「金返せ」と言いたくなります。国会図書館までの交通費とコピー代。

 

 

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