セックスワークの非犯罪化と合法化-「闇の女たち」解説編 23(松沢呉一)-2,924文字-
「「闇からのメッセージ」の予習-「闇の女たち」解説編 22」の続きです。
非犯罪化と合法化の定義
私はアムネスティの方針については、条件つき賛成に留まり、完全な同意はできないでいます。
その説明をするためには、そもそも「非犯罪化」とは何を意味するのか、その定義をはっきりさせておく必要があります。
一般に「合法化」と「非犯罪化」は対立するものではなくて、両者の境界が曖昧なまま、ほとんどイコールのものとして使用されています。これは用法を間違っているわけではなくて、定義次第、範囲次第でそのふたつは両立します。
「マリファナの合法化」を要求する人と「マリファナの非犯罪化」を要求する人たちが言っていることはほとんど同じ。同じ人物がこのふたつの言い方をしていることもあるでしょう。
現在、日本では許可なくマリファナを栽培し、所持していれば犯罪になります。大麻取締法をなくして、庭で栽培しても犯罪にはならない状態にすることも、タバコと同様に栽培や販売についての規制を残しつつ、法律に触れずに入手して吸引できる状態にすることも、どっちも合法化であり、非犯罪化ということになろうかと思います。
誰も法に抵触せずに大麻を所持し、吸引することが不可能な状態から、合法領域ができることで違法性なく所持し、吸引することができるのですから、制限つきであっても、合法化によって、相対的に非犯罪化が実現します。
しかし、セックスワークの領域では、「合法化」と区別して、「非犯罪化」という用語が積極的に使用される傾向があります。
これはロナルド・ワイツァー著『セックス・フォー・セール』の解説にも書いたと思いますが、便宜的な用法だとしてよいでしょう。あるいは原則的な用法と言うべきか。
「合法化」に伴う抵抗感
たとえば戦前の日本における公娼制度や米国ネバダ州のような方法を「合法化」とした時に、それには賛成ができない人たちが多いかと思います。私もそうです。売春を国家が管理することへの抵抗感だけではありません。
米国の例がわかりやすいかと思いますが、第二次世界が終わるまでに、連邦法でマン法とメイ法ができており、今なおこのふたつの法によって売春者の行動が制限されています。
許可を得た売春宿での売春が合法の州では、売春者個人が登録をする必要があり、これによってマン法の適用を受けてセックスワークの会議に参加することが困難になった例があります(このような事例までは出ていなかったと思いますが、ネバダについてはアレクサ・アルバート著『公認売春宿』に詳しい)。
合法の州でも、このような不都合を避けるためには、非合法の業態を選ぶしかない。事実、ネバダ州ではコールガールも多数いるのですが、こちらは当然処罰されるリスクがあります。
このような過去の、あるいは現在の、セックスワーカーにとって不利益をもたらす合法の方式には反対せざるを得ないというのが非犯罪化の考え方と言っていいかと思います。
しかし、これは合法化の方法次第であって、こういった例をもって「合法化反対」と言ってしまうべきではないというのが私の考え。米国もマン法を撤廃すればよく、個人の登録をやめて、店が管理するに留めればいい。
飾り窓は非犯罪化の実現か?
たとえばオランダやドイツで実現している飾り窓という方法が「非犯罪化」と言えるのかどうか。言えないのだとして、それに反対すべきかどうか。
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