松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスワークの完全非犯罪化は可能か?-「闇の女たち」解説編 24(松沢呉一)-2,081文字-

セックスワークの非犯罪化と合法化-「闇の女たち」解説編 23」の続きです。

 

 

 

ふたつの「非犯罪化」

 

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前回書いたように、これまで私が使用してきた「非犯罪化」と、アムネスティのそれとは別であり、アムネスティが掲げる「全面的非犯罪化」がこの国で可能だと私には思えないのであります。

今まで「セックスワークの非犯罪化」というフ レーズは、便宜的、相対的な用法として私は使用してきました。日本で言えば売防法の撤廃を指します。

しかし、アムネスティが絶対的非犯罪化を打ち出してき たことによって、いちいち定義をし直さないとこの言葉が使いにくくなりました。複数の定義が併存することになりかねないですから。

弱ったなと。面倒くさいなと。

 

 

合法化に伴う犯罪領域の発生

 

vivanon_sentenceさらに具体的に見ていきましょう。部屋貸しによる飾り窓のような業態を合法化したところで、アムネスティによる「もっとも社会的に追いやられた、街角で客を取るセックスワーカーがターゲットとなる」状態はどうしたって生起します。

横浜・黄金町では一日の部屋使用料が二万円から三万円という法外な金額になっていましたが、これはオーナーもまたリスクがあるためです。これを合法化すれば、金額は必然的に下がる。

たとえば部屋代が一日一万円としましょう。ホテルの宿泊費を考えても、一部屋一日一万円であればそれほど無謀な金額ではない。

客一人一万円とすると、一人目は経費分、二人目から利益になります。 しかし、一日一人しかつかないと利益がなく、一人もつかない人だと赤字になる。客がつきにくい人は、「だったら、街に立った方がいい」という状態が相変わらず続くわけですから、アムネスティが言うところの非犯罪化にはなりません。

あるいは街娼自体は合法として、場所を制限する方法を採用しても、そこから外れる街娼は必ず出てきます。街娼を合法にして場所を制限した場合、誰がどうルールを維持するかという問題があって、街娼たちの自主管理に任せたところで、排除されるのが出てきてしまうのは『闇の女たち』でも語られている通り。

グループ全体が損をするため、枕探しのようなことをするのは排除されて当然ですから、焼け跡時代も今もはみ出す人が出てきてしまう。

※写真は現在の黄金町

 

 

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