この上ない悪書-『親なるもの 断崖』はポルノである 1 -(松沢呉一) -2,330文字-
読むことさえ苦痛な漫画
最初に『親なるもの 断崖』というひどい漫画があると知人から聞いたのは5月上旬のことでした。この知人は、「ビバノンライフ」をずっと読んでくれているので、遊廓についてはそれなりには正確なことを理解していて、「ひどい」というのは、「ありえない話が次々出てくる」という意味です。
しかし、遊廓の話を「ビバノンライフ」でやっても、あまりに読まれず、このテーマは頓挫したことでもあるので、「いまさらまたやるのもなあ」というところもありました。
「『吉原炎上』間違い探し」」は、購読者でさえ大半の人は読んでませんでした。通してシリーズを全部読んだ人はまず間違いなく一桁です。その知人を含めて、名前まで挙げられるくらいに読まれませんでした。
読まれないだけならまだしも、長くやり過ぎたせいか、購読者が減少するに至り、「こういうものはネットでは無理、本でやるしかない」と悟って断腸の思いで途中で打ち切りました。
このことがあったので、『親なるもの 断崖』のことを聞いても、半月ほど放置。
5月下旬になって、ようやく上下巻ともに購入しました。
漫画家と出版社と読者が生み出した愚作
絶句するほど低劣な内容でした。
受ければ歴史の改竄を平気できる漫画家。意図的にそうしたのではなくても、調べもせずに、適当な内容を書き殴ることに罪悪感を感じないのだろうか。
売れさえすればどんなデタラメもありと割り切る出版社。そんなクズ漫画を喜ぶクズ読者。
そのことを考えると、憂鬱になってしまって、読み進めることができないのです。移動の際に読めるようにバッグに常に入れていたのですが、ちょっと読んですぐに閉じて、別のものを読むことを繰り返して、なかなか進まない。
やっと6月の頭に上巻を読み終えて、さてどうしたもんかと。
これを批判して欲しいという意見は他からももらったのですが、それにもうんざりします。こんなん、自分で調べて、自分で批判すればいいではないか。
これを教えてくれた知人もそうであったように、「『吉原炎上』間違い探し」シリーズをひと通り読むだけでも十分にこの漫画の無茶苦茶さがわかるはずです。怠け者にもほどがある。
そういうことを皆がやらないから、こんな漫画が売れてしまうのです。リテラシーは自分で身につけなければしょうがないでしょうに。
それでも下巻を読み終わったら、批判を開始するかとも思ったのですが、読み進めると、付箋の数が増えていく一方で、それらをすべて批判していくと考えると、また気分が悪くなります。誇張しているのではありません。本当に気分が悪くなるのです。
実はまだ下巻を読み終わってません。でも、もういいでしょう。時間の無駄。
ドラマ「吉原炎上」と漫画『親なるもの 断崖』の差
ドラマ「吉原炎上」は、まだしも批判が容易でした。原作は祖母の生き方を正確に再現したものではなく、細部は著者の斎藤真一が想像で埋めているわけですが、数多くの明治時代に出た資料をもとに、あり得る範囲で記述をしたものです。そのため、原作を読んで奇異に感じたところはほとんどない。
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