松沢呉一のビバノン・ライフ

漫画のレベルに合致した解説-『親なるもの 断崖』はポルノである 10-(松沢呉一) -2,336文字-

歴史を伝えたいなら資料を漁るはず-『親なるもの 断崖』はポルノである 9」の続きです。

 

 

 

解説を書いたのは公娼も赤線もわかっていない人

 

vivanon_sentence親なるもの 断崖』の「参考文献リスト」にある『聞き書き 室蘭風俗物語』は知らない本ですけど、著者の一人である久松進一という人は『親なるもの 断崖』の解説を書いています。この解説で『親なるもの 断崖』が歴史に基いていないことの指摘はどこにもなく、その解説を見る限り、とても信用ができる人ではありません。

こんなことを書いてます。

 

 

物語の背景に描かれる「幕西遊廓」は、「ポロチケウェ」の断崖と背中あわせで室蘭港を遠望する高台に、明治28年北海道庁指定地域とされて以来、昭和33年の「売春防止法」施行と公娼制度廃止まで実在した。

 

 

完全に間違い。売防法のどこに、公娼制度廃止の文言があるんですかね。

半ば比喩として「戦後も実質的に公娼が続いた」という言い方は可能かもしれない。とくに赤線があった時代に、それを批判する人たちはそのような言い方を好んだ事情は理解できますが、勅令九号の適用をしなかったことをもって赤線は公娼であると言えるのならば、管理売春の適用をしないことをもって以降のトルコ風呂も公娼になってしまい、公娼制度は今もあるということになります。

これは遊廓や赤線を理解する基礎の基礎。赤線の定義も今の時代には理解されなくなっていますけど、原稿を書いてゼニをもらうんだったら、そのくらいは調べるべきです。つうか、この程度も知らない人が本を出して、解説を書いている。

だから、「ビバノンライフ」の「赤線を正確に定義した公的文書」か『闇の女たち』を読めってばさ。

なお、ここにあるように明治二八年に幕西遊廓が正式に始まったことは私も確認しましたが、それ以前から、幕西には貸座敷が存在していました。これについては本シリーズの番外である「幕西遊廓を調べる」を参照のこと。

漫画家が漫画家なら、解説者も解説者。こういう解説を書いた人の著書が『聞き書き 室蘭風俗物語』

この本は『ものいわぬ娼妓たち』のあとに出ていることから、『ものいわぬ娼妓たち』のスタイルを真似して、検証もなく、裏とりもなく、ただの都市伝説を並べたものではなかろうか。読んでみてもいいですけど、期待はできない。

※国会図書館に幕西遊廓の写真がないかと探したのですが、見つからず。ここに出したのは「室蘭大町の景」とあります。大町は現・中央町。商業地区です。原野春太郎編『北海道実業大鑑』(大正十三年)より。

 

 

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