憲法改正の優先順位/今こそ個人主義の確立を 1 (松沢呉一) -3,040文字-
憲法改正の「本丸」
菅野完著『日本会議の研究』を読んで、私が注目した点がいくつかあって、そのひとつは、日本会議が憲法改正をどうとらえているのかってことでした。
1「緊急事態条項の追加」
2「家族保護条項の追加」
3「自衛隊の国軍化」
彼らが求める憲法改正には、以上のみっつの柱があって、優先順位はこの順番であると著者は指摘します。「ああ、そういうことか」と納得できるものがあって、それを確認したくて、先月三軒茶屋で行われた菅野完の講演会にも足を運びました。
安部首相は以前から「本丸9条の改正は難しいので、緊急事態条項を優先させる」といった発言をしており、高村正彦副総裁も「安倍政権での9条改正の可能性はゼロ」と言い出しているわけですが、「本丸は緊急事態条項である」というのが著者の見方であり、そう考えると、優先すべき点を優先しているに過ぎず、むしろ九条の改正はめくらましではないかとも疑えます。そこにとらわれていると、憲法改正の真意が見えなくなりかねない。
日本会議に関係してようとしてまいと、現に自民党の憲法改正草案にその3点が確実に反映されています。
緊急事態条項の危険
1点目は、第九章「緊急事態」(緊急事態の宣言)の新設に反映されています。
以下が自民党の憲法改正草案にある第九十八条。
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
閣議で決定できる緊急事態宣言がなされると、総理大臣が全権を握り、その歯止めもない。そりゃ、ヤバいに決まってましょう。
この点についてはそれなりには批判がなされていますが、繰り返しその危険性を指摘する必要があろうかと思います。
個人から集団へ、個人から家族へ
次に優先されるのは家族保護条項です。具体的には憲法改正草案の第十三条と第二十四条。
現行憲法は以下。
第十三条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
以下は改正草案より。
第十三条
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
「個人」が「人」になり、「公共の福祉」に「公の秩序」が加えられています。「個人」が「集団としての人」と読めるようもになり、人権が制限される条件が増えているわけです。
以下は現行憲法の第二十四条。
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
以下は改正草案。
第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第一項に家族についての条項が加えられ、「家族」という単位が強化されています。
しかし、この点はさほど危険視されていないことが危険。
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