松沢呉一のビバノン・ライフ

SM専用ホテルに放置された男-yes means yesの意義と実現性 4- (松沢呉一) -2,666文字-

「積極的合意」のマイナス面-yes means yesの意義と実現性 3」の続きです。

 

 

 

合意した事実が何を変えたのか

 

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前回の例で見たように、「積極的合意」の記録が存在していると、強姦ではなかったこと、準強姦ではなかったことの証明になるのは当然として、それ以外のことまですべて許容していたととらえられかねないのはなぜでしょう。

私らライターの仕事でも、それに近い現象があります。編集者から「2,000文字で原稿をお願いします。原稿料は1万円で」と依頼されて承諾します。原稿を書いて送ったら、「使用した参考資料の書影にキャプションもお願いします」と言われ、それも書きます。これが1,000文字。でも、原稿料はそのまま。

「スペースが余ったので、もう1本1,000文字の原稿をお願いします」となると、さすがに「追加分のギャラを寄越せよ」になりますが、キャプションだったり、プロフィールだったりは原稿に付随しているものですから、「面倒臭いなあ」と思いつつも、そこまでは込みでいい。リードも頼まれることがありますが、それもまあいい。

同じ文字数でも位置づけによって扱いが違います。理不尽のようでありながら、こういうことはよくあるし、それでいいと私も感じていて、「キャプションの原稿料を寄越せ」とは言いません。

セックスの場合、性的な行為のすべてはその範疇になってしまう。逆さ吊りであっても、キャプション扱い。単独で逆さ吊りにされてバイブを突っ込まれたら強制わいせつになるのに、セックスに合意していたら、それをも含めて合意したと見なされやすい。

納得しにくいところがありますが、現実にそうなってしまっています。それをはっきりさせるために、もうひとつの例を見てみましょう。

 

 

望まぬ放置プレイもセックスの範疇

 

vivanon_sentenceもうずいぶん前の話になりますが、知人の体験談です(こっちは実話です)。名前はB男君にしておきます。

B男君は飲み屋で知り合った若い女子とタクシーに乗ってホテルに行きました。そのホテルはSM専用のホテルでした。天井から手枷がぶら下がっており、彼女はB男君の手首にそれをつけます。彼は経験がなかったので、それも楽しそうだと思い、言われるがままにしていました。

全身が動かなくなったところで、女はバッグを手にして部屋から出ていきました。すぐに戻ってくると思って待っていたのですが、戻ってくる気配がない。叫んでも誰も来ない。

 

 

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