SMもセックスのうち?-yes means yesの意義と実現性 5- (松沢呉一) -2,612文字-
「SM専用ホテルに放置された男-yes means yesの意義と実現性 4」の続きです。
セックスの範疇に入ると行為の意味が変化する
前回出てきたB男君のケースは監禁罪が成立しそうです。その結果生じた怪我によって傷害罪も成立するかもしれないですけど、警察には行ってません。行くという発想さえなかったかと思いますし、行ったところでおそらく警察は親身になってくれない。
それを聞いた人たちも、「大変だったね」で終わり。人によっては「面白い体験をしたね」で終わり。人によっては「いいな」で終わり。私はそれを原稿にして終わりでした。
拘束されてから、ムチで叩かれ、ケツにペニバンを突っ込まれてさえ、たぶん彼は警察には行かなかったでしょう。恥ずかしいということもありますが、それでもなお「過剰なプレイ」「過激なプレイ」としてしか認識されないためです。
その上、金品を奪われて初めて「これは犯罪だ」という実感が出てきて、「警察に行った方がいい」と周りも言い出す。私もそう言います。
もし路上でいきなり手錠をされ、人がめったに通らない道路のガードレールに固定されて数時間放置されたら、彼は警察に行きますし、警察も被害届を受け取りましょう。これだけを切り取った時には犯罪として認識でき、他者にもそう見てもらえるのに、セックスというフレームの中に放り込まれると、とたんにセックスに付随するキャプション扱いになるのです。
理不尽とも言えますが、前回見たように、これにはそれ相応の理屈があるのだと思います。
※上のバナーに出ている女子の胸にあるCSAは、はカナダの学生団体で、このバナー自体がそこのもの。カナダですし、見た目がロックっぽいですが、バンドのNoMeansNoとは関係ないと思います。また、カナダなので、米国のyes means yesの潮流とリンクしつつも、直接は関係ないようです。
「積極的合意」が変えたもの
B男君同様、それがいいか悪いかを別にして、A子さんが「積極的合意書」にサインをしていた途端に、逆さ吊りの意味までが変化するのは理解できます。もちろん、その時に「縛られることは断ったのに」ということがあれば別として。
しかし、今までだってB男君のように、セックスという範疇に入れられた「犯罪行為」を甘受しなければならない状況は起きていたのですから、なぜ「積極的合意」をすることによって、ことさら問題として浮上してくるのかという疑問は残ります。まさにそこを「クーリエ・ジャポン」が指摘していたわけです。
もしB男君の例において、ホテルに行くこと、セックスをすることの「積極的合意書」を交わしていたとしても、そのことでは何も変化はない。彼は警察には行かないし、周りも態度を変えない。
ところが、A子さんが「積極的合意書」を交わしていると、大きな変化が起きます。周りの見方が変化し、警察の姿勢までが変わりかねない。
A子さんの場合は相手が自分よりずっと年上、かつ社会的地位が上であり、B男君の場合は相手は自分より年下ということもありますが、それ以上に、この変化は性別に関わっているようです。
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