松沢呉一のビバノン・ライフ

SM専用ホテルに放置された男・真相編-[ビバノン循環湯 125] (松沢呉一) -5,116文字-

「SM専用ホテルに放置された男-yes means yesの意義と実現性 4」を出したあと、あの話をまとめた原稿を読み直したら、細部がいろいろ違ってました。間違っていたところで、あの流れの中では問題はないのですが、実際の話は前段がもう少し込み入っていて、「いったいなんだったんだろう」と謎をより深く残すので、こちらも公開しておくことにしました。

 

 

 

奇妙な体験

 

vivanon_sentence二十代の頃、私は音楽業界の仕事をしていた。一緒に風俗店に行ったことのある例外的な存在はいたにしても、当時はそういう話をほとんどしなかったため、音楽業界の誰が風俗好きかも知らなかったものだ。

エロ業界に転身して以降、音楽業界の人たちとのつきあいはほとんどなくなったのだが、ちょっと前に、その当時の知り合いから久々に連絡があり、以来、つきあいが復活。実は彼も風俗ファンで、連絡を取り合わなくなって以降も、私の原稿を読んでくれていたそうだ。

彼や彼の仕事仲間とメシを食う機会があって、そのうちの一人が十年以上前に体験した話を教えてくれた。私はその話の面白さに、思わず取材ノートを取りだして、メモを始めた。

 

彼は当時二十五歳。まだ独身だった頃の話である。

行きつけのバーに行ったところ、一人で飲みに来ていた、かわいらしい女性を見つけて声をかけた。

「お約束ですか」

「いいえ、一人です」

「よかったら、一緒に飲みませんか」

「はい」

そう言って彼女はニコリと笑った。

歳は彼の二つ下だという。ルックスのみならず性格もよく、彼はすっかり彼女のことを気に入った。

相手もまんざらではないようで、改めてデートする約束をとりつけることに成功した。当時はまだ携帯電話が浸透していなかったせいもあって、彼女は電話番号を教えてくれない。苗字も教えてくれず、下の名前だけ彼に告げた。彼は自宅の電話番号を彼女に教え、彼女は「絶対電話します」と言う。

このまま連絡はないかもしれないと思いつつも彼女からの連絡を待ち焦がれていたある日、遂に電話がかかってきた。

「覚えてますか。小百合です」

「ああ、ああ」

待ち焦がれていたことを悟られないように彼は返事をした。

 

 

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