脱毛ファシズムの足音が聞こえてくる-毛から世界を見る 8- (松沢呉一) -2,834文字-
「ファッショナブルなハミ毛はあり得るのか?-毛から世界を見る 7」の続きです。
ハミ毛は事故毛
今は盗撮ってことになって、撮影自体ができにくく、掲載もできにくいですけど、「アクションカメラ」系の雑誌では、プロカメラマンもアマチュアのカメラ小僧も読者もハミ毛には大変敏感でした。
毛が出ていると騒がれるので、一般の雑誌でも、撮影現場ではハミ毛には注意します。モデルさんはもちろん、カメラマンも編集者もマネージャーもメイクさんも、みんなハミ毛には敏感。そこで見逃されたとしても、あとでハミ毛がわかると、修正します。編集がアイドルのハミ毛を見逃したら事務所とトラブりましょう。
そのくらい気を使っていて、あってはならないこととされていたがために、いよいよ読者は毛に執着するという関係。
しかし、時々、意図的ハミ毛というのがありました。右の写真は「ピップマガジン」(ミリオン出版)1988年7月号のグラビア写真をアップにしたものです。よく見ると、パンツの上に相当数のハミ毛が確認できます。1980年代ですから、まだ毛を出してはいけない時代です。
パンツを下げてますから、わざとでしょう。もし撮影現場で気付かなかったとしても、また、フィルムを見て気づかなかったとしても、色校を見て編集者が気付かなかったとは思えず、事故を装った確信犯です。もちろん、アイドルではなく、ヌードモデルです。
こういうものもあるにはありましたが、基本的にハミ毛はアクシデントです。
透け毛は意図したものも事故もあり
カメラ小僧の雑誌で、もうひとつ、注目されていた毛は「透け毛」です。薄い生地の水着が濡れて、毛が透けて見える。見せるつもりがないのに見えてしまった毛ですから、ハミ毛と位置づけは近い。
盗撮系ではなくても、毛がまだ堂々と見せられなかった時代は、下着の向こうに透けて見えるようなカットに興奮をしたものです。「これは毛なのか、あるいは陰なのか」で悩む青春時代でした。
透け毛にはもう一種類あって、透けて見えることを本人がわかっているものです。現在は女性用下着カタログで確認することができます。
右の写真は下着カタログではなく、お笑いのイベントで撮ったもの。これは普通の下着でしょうから、透けることは百も承知かと思います。エロいです。ここまで見せていても、もしハミ毛をしていたら、彼女は恥ずかしがるのだと思います。
現にもう毛は透けて見えているのですから、毛を見られることが恥ずかしいというより、ハミ毛をしていることが恥ずかしい。愛車は自慢ですが、ガードレールにぶつかって事故ったことは恥ずかしいのと同じ。
ステージで堂々とこの格好をしているのはステキです。このまま表参道を歩いてもいいような気がします。
しかし、この下着は今まで履いたことがなく、まさか透けているとは思っていなかったのであれば、恥ずかしくなるでしょう。「意図毛」から「事故毛」に転落。
透け毛にはこのような意図的なものが今の時代には少なくないわけですけど、毛を出せる今となっては、上記のような冒険をする必要はなく、ハミ毛は事故毛の意味しかないと思います。
Neon Moonに感服
そのようなハミ毛の揺るぎない評価があるため、Neon Moonのマネキンのハミ毛を見て、「脇毛はいいけど、ハミ毛はダメなんじゃないか」というのが最初の私の印象でした。しかし、眺めているうちに、じわじわとその革新性が理解できてきます。
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