松沢呉一のビバノン・ライフ

性表現やセックスワークの規制と闘う女たち—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 2-(松沢呉一) -2,621文字-

フェミニズムが敵なのではない。バカなフェミニストが敵である—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 1」の続きです。

 

 

 

著者名くらい見ろ、ボケカス!!

 

vivanon_sentence「フェミニストは表現規制をしたがり、セックスワークを規制したがる人たち」と思い込んでいる人たちは少なくないでしょう。国内を見ているとそう勘違いするのもやむなしですけど、海外を見渡すと全然違いますから。

海外にも規制を進めているフェミニストは存在しますが、むしろそれに反対している方が多いかと思います。

ポルノグラフィ防衛論 アメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性私がいくら表現規制反対、セックスワーク規制反対と言っても、「松沢は男だから」と糞どもは属性で否定します。中身を批判できないので、性別を批判するしかない。こういう連中が「差別反対」だのと言っているのだから、笑わせます。

米国における表現規制に反対するフェミニストたちの動きについては、これまでにも何度かタイトルを挙げているナディーン・ストロッセン著『ポルノグラフィ防衛論』をお読みください。

「ビバノンライフ」では、この本から引用した「パターナリズムが固定する差別構造」「セックスフォビアが導く未来」を参照にしてください。

「おっぱい募金」反対署名を批判した際にこれらを書いたのですが、それでもなお「松沢は男だから」と言っているアホがいたらしい。

ナディーンは女の名前であり、この著者はフェミニストの法学者だ、ボケ。ポルノ表現を守ろうとするのは男だという思い込みから抜けられない浅はかさ。日本版の監修者が男だからとして、女が書いた本を葬ろうとする差別者めが。

 

 

共感できるフェミニストたちの主張

 

vivanon_sentenceこの機会に参考になる本のタイトルをいくつか挙げておきます。

デビー・ネイサン著『1冊で知るポルノ』(原書房)は私が解説を書いています。内容は『ポルノグラフィ防衛論』とも重なっていますが、ポルノを規制する動きは何をもたらすのかを知るためには格好の一冊です。『ポルノグラフィ防衛論』は大部だし、学者の文章なので、生硬で読みにくいかもしれず、軽く読むなら、値段の安いこちらをオススメ。

ジュディス・レヴァイン著『青少年に有害!  子どもの「性」に怯える社会』(河出書房新社)は、子どもをダシにして性表現を規制する人たちへの批判書です。「子どもに悪影響がある」という主張には根拠がなく、むしろ性的情報から遠ざけることにこそ悪影響があるかもしれないことまでを指摘しています。

マリアンヌ・メイシー著『彼女のお仕事』(原書房)はセックスワークについての好著。軽いタイトルと表紙なので誤解されそうですけど、表現規制をしたがるフェミニストたちを徹底批判しており、マッキノン、ドウォーキンの主張のみならず、人としての問題点までを指摘しています。

セックスワークについてはパット・カリフィア著『パブリック・セックス』(青土社)も大いに参考になります。パット・カリフィアはサディストを自認。ついていけない主張もなされていますが、どこの国でも、女王様はしっかりと自分の意見を表明する人が多いですわね。

名前を見ればわかるように、これらの著者はすべて女性です。フェミニストと自称しているとは限らないですが、共感できる人たちです。

これらに目を通せば、「日本のフェミニズムはおかしいのではないか」と気づけます。他にもいっぱい出ていると思いますが、最近私は国会図書館が公開しているものばかり読んでいるので、新しいものは知らん。

 

 

日本のフェミニズムの惨状

 

vivanon_sentenceそれもまたフェミニズムのひとつだとしても、規制を進めたがる道徳派フェミニストがなぜ日本にはこうも多いのか。また、それに反対するフェミニストがどうしてこうも少ないのか。

これについては、「ビバノンライフ」でずっと論じていて、婦人運動の最初期、つまり「青鞜」の時代から始まっていたと私は見ています。

軽くおさらい。

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝青鞜」には、歩み寄る接点を一切見出すことなく、矯風会などの道徳運動を批判し切った伊藤野枝もいました。

その伊藤野枝の思想をまったく評価することがなく切り捨てたのが平塚らいてうです

日本の婦人運動はこちらに汲みする人たちが主流になるわけですが、その平塚らいてうでも、矯風会のような道徳運動と自分たちの婦人運動とをはっきり区別し、矯風会を「罵倒」と言っていいくらいに強く否定していたことはすでに見てきた通り。

しかし、戦後は、道徳に対する警戒心は失われ、神近市子のように、家族制度護持を隠しもしない婦人運動家が、日露戦争以降、積極的に軍部に協力してきながらもなんのお咎めもなかった矯風会らと結託して、売防法を制定し、今もその流れが脈々と続いているというのが私の見方。大雑把なまとめですが、そんなには間違っていないでしょう。

売防法制定運動の人脈は純潔運動とも重なりをもっていて、処女性や貞操を重んじ、それを社会全体に拡大しようとした人たちと手を組む婦人運動家って悪夢でしょ。しかし、それがこの国の現実なのです。

 

 

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