松沢呉一のビバノン・ライフ

事実より道徳が大事—道徳派の手口 2-[ビバノン循環湯 139] (松沢呉一) -4,337文字-

廃娼運動=売防法=純潔運動—道徳派の手口 1」の続きです。

事実の軽視が道徳派の特徴。「おっぱい募金」においても事実確認をまったくやらないまま、思い込みだけの署名を始めた糞とそれに署名した糞どもを思い出していただきたい。どういう立場であれ、事実を重んじることができない人たちを信用してはならない。デマを駆使する人たちを信用してはなりません。

こういう人たちが得意な手法は、「虚構の海外」「虚構の欧米」を持ちだして、「こんな国は日本だけ」とやることです。今も道徳派が「こんなにポルノが溢れているのは日本だけ」とデマを流し続けていることについては「ヨーロッパのコマーシャルはどうしてエロなのか」「台湾の桃色・フランスのローズ」を参照のこと。日本が先進国の中で特異なのは、なにより刑法175条があることです。それを無視してデマを垂れ流す。

今まではそういう手口が通用したのかもしれないですが、ネットで調べることが可能な時代になったんだから、そういう詐術を使うと、信用を失うだけだと思いますよ、ヒューマンライツ・ナウさん。

 

 

自由廃業の評価がなぜ変わったのか

 

vivanon_sentence戦後の伊藤秀吉と違い、戦前の伊藤秀吉は、また、それ以外の廃娼派の人たちも、如何に自分らが自由廃業を進め、娼妓たちを救出して更生させたかをさんざん語ってきた。

その代表的なものとして沖野岩三郎著『娼妓解放哀話』(中央公論社/1930年)があり、「娼妓自廃九百八十七人」などと救世軍の成果を声高に語り(これは救世軍の士官・伊藤富士雄一人が救出したとされる数字)、それ以上、救済できないことに関しては、悪辣な経営者や公娼制度そのものに責任を求める。

そして、伊藤秀吉自身が、戦前出した『紅燈下の彼女の生活』(実業之日本社/1931年)というよく知られた本の中で、救世軍の活動を非常に高く評価していている。

 

長き歴史と多くの人手によって同軍が、泥水の中に苦悶せる寄辺なき憫れな婦人達を救上げた数は、恐らく幾千人の多きに達するであろう。真に嘆賞すべき奉仕ではないか、東京に於ける「家の光」大連に於ける「婦人ホーム」は醜業に陥りたる婦人達を救済感化して、正しき道を歩ましめる為めの同軍の社会事業である。

 

廃娼派の雑誌「廓清」を読めば、このような自画自賛のオンパレードである。

このように、戦前は、救出した女たちの例を成果(救世軍的に言えば「戦果」)として華々しく掲げ、妓楼のひどさを彼女ら自身に語らせ、更生に成功したように見せかけながら、戦後になると、手のひらを返して、更生させることが如何に難しいかを語り、その生活を考慮に入れる価値など一切ないとの姿勢をとる。このあからさまな不一致は一体どこから生じたものなのか。

 

 

自由廃業の数字を確認する

 

vivanon_sentence実際に戦前の廃娼運動はどの程度の成果を上げたのか、数字を確認してみよう。

有泉亨・団藤重光編『売春』(河出書房/1955年)に掲載された瀬川八十雄「自由廃業運動」に「昭和四年より同八年に至る救済婦人九百人の廃娼後の成行」という表が出ている。救世軍は廃業婦人の更生施設をもっていて、その多くはこの施設を通過しているはずだ。

この数字が売春婦の更生施設が有効か否かを判断する非常に大きな根拠となる。すべて転載してみる。

 

結婚して家庭を営むもの     三九六人
親元にて家事を手伝う者     二三二人
親類及知人の許に引き取られた者  五〇人
商店員及女工となった者      一八人
看護婦となった者          二人
高女在学中の者           二人
連れ戻されて醜業を営む者     一九人
女給及び妾になった者       一〇人
死亡者               五人
所在不明             六五人
在舎中              三二人
その他               三人

合計              九〇〇人

 

どうして九百人ピッタリなのかとデータの信憑性をまずは疑ってしまう。たまたまピッタリになることもあろうから、ここでは数字に虚偽がある可能性は無視するとして、この数字を見ると、「施設は悉く失敗」という国際連盟の評価はまったく当たらないことになる。

戦前、成果として誇らしげに喧伝した数字を伊藤秀吉が知らないわけがないのだから、これを戦後になって無視しだしたことに、奇異な印象を受ける。

 

 

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