松沢呉一のビバノン・ライフ

産む産まないは女が決める—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 12-(松沢呉一) -5,132文字-

女性解放運動は売防法制定で敗北した—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 11」の続きです。

 

 

 

日本の婦人運動がやってきたのは制度の保守点検

 

vivanon_sentenceここまで見てきたように、日本の婦人運動の役割は制度内での利益配分を増やすことであり、制度が綻びては元も子もないので、制度の保守点検係をやってきました。

それにも意義はあったと思います。しかし、意義はその範囲でしかないことを見据えるべきですし、制度外の動きについては妨害をしてきたことも見据えるべきです。

伊藤野枝を筆頭に、制度そのものを否定しようとする婦人運動家は葬られます。あるいは花園歌子のように、はなっから無視されます。評価したのは婦人運動家ではなく、吉野作造でした。今の時代でも、花園歌子を評価しているのはエロライターの私くらい。まして、対決姿勢を見せた赤線従業婦組合ともなると、罵倒、蔑視とともに潰されます。

完全なる結婚 (1982年) (河出文庫)振り返ってみていただきたい。戦前の産児制限について誰が正しい主張をしていたのか。

今現在、国家主義的、民族主義的産児制限を掲げる人は相当にイカれた人でしょう。優生思想のすべてが間違っていたわけではないにせよ、その多くは科学的にもすでに否定されています。

社会主義者たちが主張した新マルサス主義も今は掲げる人はいない。世界はそんなに簡単にはできておらず、おおむねすでに否定された過去の論です。

残ったのは婦人解放としての産児制限論です。すなわち「産む産まないは私が決める」という考え方であり、今現在はこれのみが有効です。マーガレット・サンガーの優生思想の部分は除くとして、この考えのみが残りました。

「私の決断」「私の選択」「私の意思」「私の自由」を貫き、「他人の決断」「他人の選択」「他人の意思」「他人の自由」を尊重することが当時も今も正しい。しかし、これをほとんど受け入れられなかったのが日本の婦人運動です。

また、エレン・ケイの「離婚の権利」の主張も受け入れることができず、ただの良妻賢母思想にしてしまったのが日本の婦人運動です。

 

 

現実が婦人運動を乗り越えてきた

 

vivanon_sentence参政権を日本の女たちが得たのは戦争に負けたおかげ。つまりはGHQのおかげ。戦前からそれを求める動きがあったにしても、婦選運動からこそ、市川房枝、奥むめお、山高しげりらの「女ファシスト」が登場してきたのはここまで見てきた通り。

それに限らず、女たちの決定権、選択権が拡大してきたのは、婦人運動が獲得してきたものではなくて、現実が婦人運動を乗り越えてきたのです。

戦後になって産児制限の普及運動をしていた人たちもいますし、性病対策として、コンドーム使用を公的機関も推奨するようになりますが、コンドームによる避妊が一般的になったのは、それこそヴァン・デ・ヴェルデ著『完全なる結婚』のような啓蒙書が出版できるようになり、エロ雑誌がその知恵を拡散したことが大きい。

性教育が実現していくのは、1960年代以降かと思います。それまでには表現の自由こそがこれを実現させていました。

山本宣治もそうですが、戦前から「自慰無害論」を唱える人たちは存在しました。同性愛を肯定する人たちもいました。しかし、これらが一般的になるのは戦後のことで、やはり俗な出版物が果たした役割は大きい。

婦人運動家たちはこれについてはなんら貢献していない。それどころか、保守点検と修繕係である神近市子のような婦人運動家はそういった表現をも規制しようとしました。

米国のフェミニストは、自分らの表現が規制され、逮捕され、投獄された歴史から表現の自由を守ろうとする。日本のバカフェミ、糞フェミは過去の歴史を引き継いで、今も表現規制を安易に求めるってことかと思います。

※写真はたまたま手の届くところにあった「夫婦生活」のパチモン雑誌「夫婦生活号」(奇抜読物社)昭和27年2月発行号の目次。こんなチープな雑誌でも特集は「百万人の性医学」。こういうものを当時の人たちは貪り読んだのです。柴田錬三郎「不貞の妻の夜」なんて小説も出ています。夫が病気になって金に困っている時に、初恋の男にバッタリ再会し、金のために抱かれるという内容。戦前ならこれも発禁。

 

 

神近市子よりはるかに価値のある朝吹あおい

 

vivanon_sentence夫婦にも性の知恵は必要でしたが、婚前交渉が当たり前になった時代には、未婚の男女もこれを必要としました。婚姻外セックスも婦人運動が実現したものではありません。婦人運動の外にいる女たちが性の自己決定を自ら獲得してきたのです。

 

 

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