川奈まり子は共感できるフェミニストである—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 14(最終回)-(松沢呉一) -4,135文字-
「世界に広がる赤い傘—共感できるフェミニスト・共感できないフェミニスト 13」の続きです。
トルコが危うい
トルコはイスラム圏ではもっとも性行動に対する締め付けがゆるくて、ゲイ向けのハッテン場もあり、CAM4にもトルコ人の男女がよく出ています。
しかし、このところ「自由なトルコ」が危うくなってきています。
以下は今年6月のAFPの報道。
記事にあるように、イスラム原理主義者が伸してきていて、LGBTへの攻撃を強めており、それを背景に警察が集会を禁止。
下の記事はトランスジェンダーの活動家でもあるセックスワーカーが殺された事件とその抗議を伝える本年8月のBBC NEWS。
写真は抗議の様子ではなく、妨害されたパレードの様子。殺されたHande Kaderさんはこのパレードにも参加。その写真は記事の下の方に出ています。
この記事にあるように、これ以前にもトランスジェンダーのセックスワーカーが襲われる事件が頻発しています。これはトルコに限ったことではなく、また、イスラムに限ったことではない。
制度からはみ出した存在として、LGBTとセックスワーカーはつながっていて、トランスジェンダーのセックスワーカーはふたつの面で攻撃されやすい。だから非犯罪化が必要、連帯が必要。LGBTの規制、セックスワークの規制はさらに彼らを追い込むだけです。
街娼が殺されていた時代、婦人運動は何をしたか
日本の殺人者はもっと姑息とも言えて、焼け跡時代、上野の男娼が警視総監を殴ったことはあっても、殺されたケースはあまり聞かない。体が大きく、力のある男娼たちは街娼グループの用心棒役でした。
しかし、女たちは多数殺されています。警察を含めて、正確にカウントした人はいないと思いますが、『闇の女たち』に書いたように、焼け跡時代の数年で三桁に達する街娼が殺されていることは間違いないでしょう。
単純に金を奪うためだったとしても、そこには「こんなヤツらは殺されていいのだ」という蔑視が多くの場合関わっているのだと思います。蔑視が殺人者を作り出す。
こんな時こそ婦人運動家は連帯すべきですが、そんな話は日本では聞いたことがない。むしろ、「子どもの教育に悪い」などとしてパンパンに対する蔑視を強化し、条例の制定、狩り込みに同意した人たちが多いでしょう。
殺人者側に立ったのです。殺人者が姑息なら、婦人運動も姑息です。
「売春の権利なんて発想がなかった時代だから仕方がない」なんて弁護は成立しません。
教育家として知られる西村伊作は雑誌「りべらる」で、パンパン肯定論を書いてます。与謝野晶子らとともに文化学院を創設し、日本で初めて男女共学を実現、戦中、不敬罪で逮捕、投獄されたこともある西村伊作だけのことはあります。
西村伊作は性道徳にとらわれない者たちとしてパンパンを擁護しており、「売春の自由」を提唱。西村伊作のこの一文は素晴らしく、これについて論じた文章を10年以上前に書いてますので、そのうち「ビバノン」で循環しますか(循環しました)。
これこそフェミニストの視点だと思うんですけど、この国のフェミニストは制度外の者たちに冷淡であり、「レズビアン嫌いのフェミニスト」の存在はそれを象徴しましょう。
※SWAN(sex workers rights ,advocacy network)に参加するブルガリアのHealth and Social Development Foundationによるポストカード。SWANはハンガリーで生まれたセックスワーカー支援のネットワークで、東ヨーロッパを中心に展開。18カ国の団体が参加し、トルコやタジキスタンにもSWANに参加している団体があります。この地域でこのような動きが始まるのはソ連崩壊以降なので、そんなに歴史はなく、SWANは2006年設立。上に書いたトルコの現状も、SWANが積極的に取り上げています。トルコはRed Umbrella Sexual Health and Human Rights Associationという団体がSWANに参加しており、HIV関連の活動が中心のようです。
バカフェミ・糞フェミに殺されるな
少なからぬフェミニストは、今も同じです。働く者の人権など考慮していない。日本の婦人運動は良妻賢母が主流派であり、個人の人権を尊重する方向にはいかなかった。戦争に加担し、一貫してセックスワーカーを無視し、潰してきたことを反省しないまま、ここに至っています。
そして、セックスワーカーが殺されているのも今なお同じです。
店舗型より、無店舗型の方が危険であり、実際に、無店舗が合法化されてから殺される事件が激増しています。この辺については「セックスワークの理解と議論を深めるべし」に書いたので、そちらを参照してください。
今もバカフェミ、糞フェミが言う言葉に「搾取」というものがありますね。
不当な搾取であれば改善すべきですが、こういう連中はそれさえ言えば批判になると信じている「搾取バカ」ですから、その内実など考えてはいない。
個人売春のみを認めた場合、殺されるセックスワーカーはさらに増えるでしょう。
こういう人たちは殺人を加速するスティグマを増大させるようなことをしながら、殺人が起きやすい環境にセックスワーカーを追い込もうとしています。
こんな人たちの言うことを聞いていたら殺されます。
※写真はマケドニアのセックスワーク権利団体STAR-STARによるデモ。Feminists for Sexworkersより。©STAR-STAR
日本のフェミニズムも捨てたものではない
ここまで読んできた人はフェミニズムに絶望しそうになりましょう。「日本のフェミニズムはたんなる公序良俗を守る人たちかよ」と思ってしまうのもやむなし。
しかし、日本にも共感できるフェミニストは少なからずいます。
日本のフェミニストで、セックスワークをフェミニズムの文脈でしっかり評価する人たちが少なすぎます。だから、こっちの流れに属する人たちは、フェミニストと見なされないし、一部を除いては自称もしない。そう自認していても、フェミニストと名乗ると誤解され、損をするため、そうは名乗らない。
そのため、私が共感できる海外のフェミニストはフェミニズムのど真ん中にいて、共感できる日本のフェミニストは、多くの場合、フェミニズムの外にいるということになってしまいます。パンパンに対してフェミニズムの視点から肯定したのはフェミニズムの外にいた西村伊作だったのと同じ構図が今も続いています。
たとえばSWASHは本来だったらフェミニスト・グループだと言っていいでしょう(フェミニストを自称しているのもいます)。
最近見事にフェミニストぶりを発揮しているのは、川奈まり子さんです。本人はそう自認していないでしょうし、そう言われるのは迷惑でしょうけど、彼女が主張していることは、共感できる海外のフェミニストが言っていることと同じ。私らが言い続けてきたこととも同じ。
「どうも日本のフェミニズムはおかしなことになっている」と感じている人は、彼女が言っていることを読んで考えましょう。共感できるフェミニズムはここに存在していることに気づけるはずです。
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