松沢呉一のビバノン・ライフ

ホモフォビアが薄いはずなのに同性婚が実現しにくい日本—エレン・ケイの思想(のある部分だけ)を再評価する 3-(松沢呉一) -2,849文字-

宗教、思想、道徳が人を抑圧する—エレン・ケイの思想(のある部分だけ)を再評価する 2」の続きです。

 

 

 

米国でソドミー法が無効とされたのは2003年

 

vivanon_sentenceソドミー法とアラン・チューリング法」で見たように、キリスト教圏では同性愛が処罰された歴史があります。

英国のgross indecency法において、幼児性愛の実行は、相手が同意年齢に達していないという点で違法にする根拠があるのに対して、同意年齢に達している者同士の同性間の性行為を制限する正当な理由は考えにくい。「異常な行為」「反社会的行為」ということですが、結局、そう認定するのは宗教的規範です。

検索しても出てこないので、記憶で書きますが(もともと人に教えられた話ですし。よって間違いがあるかもしれない)、米国で、ソドミー法としてオーラルセックスを禁止していた州の出来事。この州法では男女間でも違法でした。生殖につながらない快楽の性の否定であり、もちろん、宗教的道徳によるものです。

Sodomy Law法はあっても、その州では、いまさら運用されるようなことはなかったのですが、ガキが人んちを覗き込んだらちょうどフェラチオしているところで、ビックリして通報して、夫婦が逮捕された事件がありました。

警察だってこんなことで動きたくないでしょうが、通報されたら動くしかないし、現に違法ですから、見逃しにくい。覗き込んだことも違法ですけど、子どもですからこちらは問題にならなかったのでしょう。「いくらなんでも」というので、それをきっかけに法律が廃止されましたとさ。

そんなに古い話ではなくて、1980年代か90年代のことだったかと思います。最高裁判所がテキサス州のソドミー法に対して違憲であるとの判決を出し、全米のソドミー法が無効になったのはやっと2003年のこと。十年ちょっと前までは生きていたのです。

個人と個人が合意の上でどんなセックスをするのも自由という考え方からすると、くだらない法律です。不要なものはどんどん廃止していかないと、こういう不都合が生じてしまいますし、その糞ガキがもっと悪賢かったら、「チョコを買ってくれたら警察に言わないであげるよ」と恐喝したかもしれません。

※日本ではソドミー法はほぼ存在しなかったため、重要なテーマにならず、これに絞った本は出ていないようです。一冊くらい翻訳本があっていいんじゃないかな。売れそうにないけど、私は買います。

追記:このエピソードを教えてくれた知人(当時在米)に聞いたところ、その州でソドミー法が廃止されたきっかけは、この話ではなく、「オーラルセックスをしていたことが正当な離婚の事由として認められてしまう」という事例が理由でした。複数の話が混じったよう。

 

 

それぞれの社会を規定するもの

 

vivanon_sentence今なお同性愛を処罰する国は圧倒的にイスラム圏であり、これは宗教規範によるものであるように、キリスト教圏においてこれを処罰した背景にあったのも宗教規範です。これを支えてきた個々人の感覚、感情も、自覚しようとしまいと、宗教規範に規定されてきたのだと思います。

Pussy Riot - A Punk Prayer [DVD] by Nadezhda Tolokonnikovaエレン・ケイが批判していた「個人より上位に置く社会の安寧秩序」や「他者に強いる理想主義」に、宗教的なものが含まれていただろうと書きましたが、そう推測するのは間違ってないでしょう。

その正体が客観視できるくらいに宗教の拘束力が薄くなると、今度は個人の幸福を追求する権利、つまりは人権が浮上してきて、法が廃止され、同性婚までが認められるようになるのがそれらの国々。

ロシアはなお正教会が強く、だからセクシュアル・マイノリティに対する弾圧が続いていて、プッシー・ライオットがロシア正教を批判するのも筋が通っています。また、同様に正教会が力を持っているウクライナのFEMENが女を抑圧するものとして宗教的道徳と闘っているのも当然かと思います。

 

 

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