松沢呉一のビバノン・ライフ

変態とは?—昭和20年代の変態雑誌「愛情生活」-[ビバノン循環湯 150] (松沢呉一) -6,826文字-

赤線殺人事件」「久保盛丸と電球オナニー伝説」に続いて、「スナイパー」の連載から、雑誌「愛情生活」について書いたもの。これは3号に分けて出したのだと思います。雑誌の現物が出てこないので、「変態とは?」の表紙以外は、適当な図版を入れておきました。

 

 

 

「愛情生活」とは?

 

vivanon_sentenceちいとも注目されることのない雑誌ですが、「愛情雑誌」(愛情生活社)という月刊誌がありました。昭和二六年に創刊になり、少なくとも昭和三〇年までは出ていたB6サイズの月刊誌です。

表紙に「二人を結ぶ愛の雑誌」とのコピーが書かれていて、「夫婦生活」同様の穏健派夫婦雑誌かと見紛ってしまいかねず、特に古本屋で棚に差されていると目立たないのですが、その中身たるや、この時代のものとしてはもっともエグい部類に入る雑誌です。

激動する売春事情、性風俗事情の記録としても充実していて、ありがたいことに、人気がないおかげで入手は容易でありまして。私は八割方揃えてます。

試しに昭和二七年二月号を見てみましょう。表紙には「芸能界醜聞録」「淫らな拷問」とあり、女性向けの雑誌にもありそうな女性のイラストで、当時、私が本屋で見たところでさして注目しなかったかもしれない。

でも、開いてビックリ。巻頭グラビアでは「拷問の怖るべき実態」として、18ページにわたって残虐写真が掲載されてます。常磐太郎という人物のコレクションだとありますが、よく見りゃ、半数くらいは伊藤晴雨演出による写真です(晴雨のクレジットはなし)。残りは母親に折檻されて死んだドイツの少女の写真、サディストの夫に体中を噛まれた花嫁の写真、明治に入っても行われていた磔や晒し首の写真、マゾとして有名な矢作ヨネの死体写真などが並んでいます。

目次ページの周りにも江戸時代に罪人に科せられた縛りの図解があしらわれ、その裏の二色ページは、腰巻き一枚の女が「弓折れ太股責め」という拷問をやられているところの絵です。

本文も「拷問女地獄」「南方植民に於ける怖るべき拷問」「日本姦淫刑罰三千年史」「凄惨・鮮血したたる拷問地獄」「私刑百態」「拷問哀詞三部作」「邪教の淫らな拷問実話」「鞭の下の赤き女の恋」「やわ肌は拷問にふるえ!」といったように延々と拷問話が続き、「芸能界醜聞録」は全部で二十ページくらいしかありません。それ以外の三百ページのほとんどが拷問三昧なのです。拷問雑誌か。

裏窓」などでもよくあったように、拷問という切り口でサド心、マゾ心を刺激する手法は初期のSM雑誌の王道です。この雑誌ですでにその手法は確立していて、「これでもか」の残虐非道な拷問話の間に、「鞭打ちが狂った劣情を掻き立てる」「変態か拷問か 夜毎さいなまれる女の偽らざる告白」といった記事がちりばめられています。

「鞭打ちが狂った劣情を掻き立てる」という記事は、村松喜雄によるもので、同姓同名の別人じゃないとすれば、翻訳本を手がけていた人です。ここではフランスやイギリスの鞭打ち事情を詳しく紹介しており、パリでは金を払って鞭打ちをさせてくれる、あるいは鞭打ちをしてくれる「鞭打ちの家」の広告が新聞にたくさん出ていると書いてます。「SMクラブという形式は日本独自のもの」とよく言われますけど、昔のフランスではポビュラーな存在だったんですね。おそらくこれは娼家、つまり管理売春が禁止された際に消えたのだろうと思います。

想像力で作り上げたのか、元ネタがあるのか、実際にそうしたのかまではよくわかりませんが、この人は、フランスまで見物に行ったようでもあって、鞭の種類や鞭打ちされる女の様子までを描写しています。

サディズムにマゾヒズム。この相反した二つの性格が、一つに結びつけられた時、青春の悦びが、高く結ばれる時なのだ」と、こういった行為を肯定的に書いているという点でも注目に値するでしょう。何が言いたいのか、意味はよくわかりませんけど。

続いて昭和二六年一二月に発行された臨時増刊「女性の敵・淫虐魔」を見てみましょう。こちらは増刊号だけあって、一点の迷いもなく、強姦、凌辱、変態、痴漢のオンパレードです。グラビアページには、強姦殺人の現場写真が並んでます。たぶん図版が足りなくて、全然関係のないヌード写真も混ぜてあるのがご愛敬。ギャグ漫画も出ていて、全部、強姦、変態、痴漢、強盗がテーマです。

※以下、エロいイメージ写真を使用しているので、18歳以上の方のみお進みください。

 

 

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