松沢呉一のビバノン・ライフ

元彼が店にやってきた—飛田の女たち 2-1[ビバノン循環湯 163] (松沢呉一) -4,862文字-

第一部も第二部もあくまで雑談なのですが、第一部では飛田全体の話が中心だったのに対して、第二部では、そういった部分を繰り返し聞いても仕方がなく、また、二人ともそれほど飛田に長くいるわけでもないので、個人的な経緯、体験、感想みたいなものが中心です。ヘルスやソープランドで働いている同世代とさして変わりがない話も多いため、「アクション・カメラ」掲載時は、こっちは小さく扱ったはず。

今回、第二部の文字起こしを読み直したら、カットした部分にもそこそこ面白い話があったため、それらも生かしました。その過程で気づいたのですが、雑誌掲載時には、飛田という名前さえ出していなかったようで、T新地になってました。大阪のT新地と言えば飛田ですから、わかる人にはわかるとして、直後には地名さえも出しにくかったのだと思います。そのくらい配慮をしてました。今回は飛田新地は出してもいいとして、なお彼女たちのプロフィールについては伏せていることが多々あります。サービス内容についても。

これだけ読んでも意味がわからないところがあるかもしれないので、「飛田の女たち  1」を先にお読みください。

この時の写真も探せないので、昼と夕方の花の写真です。

 

 

 

ヤング部門の二人と雑談

 

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第一部のママとおばちゃん、麗子、毬絵の話を聞いてから、二ヶ月ほど経ったある日、またも飛田に行き、女の子らの雑談につきあう機会があった。これもまた店が掲載を承諾したわけではないことをお断りしておく。

ミミと小雪は同じ店に所属する二十代。飛田新地では、場所によって年齢による棲み分けができていて、彼女らがいるのは、若い世代が多いメインストリートにある店だ。この通りはヤング通りと呼ばれ、第一部に出てきた毬絵のいる店もこの通りにある。

ミミには以前会っているが、ミミの先輩である小雪とはこの日が初顔合わせだ。

松沢「前に来た時、ミミちゃんは休んでいたよね。どうしたんだろうと思ってた」

ミミ「たまたまですよ。風邪をひいて、何日か休んでいただけ」

松沢「飛田に来たのは今年になってからだよね」

ミミ「うん」

ミミは二十一歳。実年齢である。

松沢「小雪ちゃんは?」

小雪「私は去年の十二月から。今二十六歳だけど、自称二十二歳」

十分その歳に見える。

ミミ「“一緒にいる子っていくつ?”ってお客さんに聞かれて一瞬迷うんですよね、“えーっと、たしか二十二かなっ”て(笑)」

他の風俗産業や水商売と同じく、ここではさばを読むのはよくあること。

小雪「私はここの前に、松島新地(九条)に二年くらいいたんですよ。その前にスナックにいて、知り合いに、こういうところがあるよって言われて」

松沢「松島新地に行ったのは、お金に困って?」

小雪「ううん、別に。借金もなかった。水商売には飽きていて、なんか別のことをしようかなって思っていた時に、もっとお金になるからって。私は田舎に帰りたくて、どうせならお金を貯めてからにしようと思ったんです。こういう業界はまったく知らなかったから、最初は何がなんだかわからんかった。店に行ってもわからんかった。店の入口に座らされて、“なんですか、座って何するんですか”ってカンジやったもんね」

ミミ「私もそんな雰囲気で、“どこまで何をやっていいんですかぁ”ってカンジだもんね」

小雪「お客さんに聞いて、“えー、ちょっとー”って。初日は泣いた」

このように詳しい事情を店が話さないのは、騙そうとしているのでなく、そのことを話した途端に管理売春、あるいは場所の提供になってしまうためだ。トラブルの元なので、話していいなら話すだろう(もちろん実際には遠回しに、あるいははっきりと話す店もあるわけだが)。売防法があるために、こういう理不尽が起きてしまう。

 

 

ソープもヘルスもよくわかっていない二人

 

vivanon_sentence借金で縛られていたわけではないにしても、事情を知らずに働くケースがあるとは思わなかった。もちろん、小雪の場合も、イヤだったら、この段階でやめられたのだが、それでもやめないのが今の時代か。

ただし、まったく予想ができていなかったわけではないことは、このあとの会話でわかる。

ミミ「私もはっきりとは知らなかったけど、“たぶん、そうやろな”とはなんとなく想像はついていて、“なんでもこーい”だったから(笑)、私はなんともなかったよ」

小雪「ソープかな、ヘルスかなとは思っていたんだけど」

松沢「そこまではわかってんじゃん」

小雪「でも、ソープもヘルスも何をするかわかってなかった」

ミミ「未だにわからんよ」

松沢「え? 今も」

ミミ「微妙にはわかる」

松沢「言ってみ」

ミミ「どっちかがヤッていい。ソープがヤッていいのかな」

小雪「ヘルスは口だけ」

松沢「素股とかね」

ミミ「背中?」

松沢「(笑)素股。聞き間違いにもほどがある。たまには背中にこすりつけるのがいるかもしれんけど」

ミミ「ソープはマットもあるんやろ」

小雪「ヘルスにもマットがあるみたいよ」

ミミ「そうなの?」

松沢「そういうヘルスもある。マットヘルスっていうジャンル」

ミミ「そうなんだ。普通のヘルスとは違うんや」

松沢「ヘルスなんだけど、マットプレイが主体。まあ、知らなくても仕方がないわな。君らは客で行けないしな」

ミミ「行かれへん。お帰りくださいって言われるわ」

こんなにも性風俗について知らないまま、飛田に来るのは奇異に思うだろうが、ソープ嬢にも時々こういうのがいて、面接で話を聞いて驚いて帰っていくというのもいると聞く。

だったら、とりあえず、ピンサロかヘルスで働けばいいと思うところだが、そういうことも知らずに、急に金が必要になったりして、その時に思いつくのはソープランド。ピンサロやヘルス、イメクラといった言葉くらいは知っていても、性風俗と言えばソープランドをまず思い浮かべるらしいのだ。

 

 

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