松沢呉一のビバノン・ライフ

私らが客を選んでいる—飛田の女たち 1-2[ビバノン循環湯 161] (松沢呉一) -4,564文字-

視線と笑顔で決定する—飛田の女たち 1-1」の続きです。

 

 

 

一ヶ月は「入ったばかりの新人」

 

vivanon_sentence毬絵は別の店で働いているのだが、この街に来たばかりでまだ慣れなかった時のことをこう思い出す。

毬絵「私も最初はタイミングが合わんかった。おばちゃんが誰に声をかけたんかわからんくて、違う人に笑いかけたり」

遠くから歩いて来る客が見えるように、壁に鏡が置いてあり、おばちゃんはそれを見つつ、店の前に差し掛かったところで声をかけるのだが、女の子は奥まったところにいるため、客の様子が直前までわからないのだ。

おば「でも、遊び慣れた客は、そういう様子を見ただけで、その子が新人だとわかる。だから、初物食いの客にとってはその方が受けることもある」

毬絵「私も一ヶ月くらいは、“この子は入って一週間”とおばちゃんがお客さんに言ってた(笑)」

おば「一ヶ月前から来てない客やったら、いつ入ったかなんてわからんやろ(笑)」

毬絵は入って三ヶ月になる二十一歳。見た目が初々しいので、当面、新人で通用しそう。

おば「女の子が“おはようございます”って入って来た時に、顔見て“今日は調子悪いな”とかわかる。そういう時は客がつかない。生理前も絶対ダメ」

精神状態が不安定になり、人によっては表情がきつくなるものらしい。こういう状態を見抜くのもおばちゃんの仕事だ。

おば「そういう時は、“ぼちぼちいこうか”って。焦らせてもあかんから。そういうんは、普段からいろんな話をしているうちに、なんとなくわかってくる」

麗子「そやから、こっちの性格や事情も全部おばちゃんに知っといてもらった方がいい。私も隠し事は一切ないわな。相談がてら、いっつも男のことを話しているしな(笑)」

こうやってダベッていても、互いに互いの事情を何から何まで知っていて驚かされることがしばしばだ。個人の生活には踏み込まないようにする傾向が強い昨今のヘルスやソープではこうはいかない。

 

 

衣装の工夫

 

vivanon_sentence松沢「女の子の中には、肌を露出する格好をしているのもいるけど、あれって効果ある?」

麗子「どうやろ。人にもよるやろうけど、あんまり関係ないとちゃう。それより顔立ちとか表情。よっぽど胸がカンカンと出とれば別やろけど」

麗子はそうでもないのだが、毬絵の胸はカンカンと出ている。彼女が胸の谷間が見える服を着ているのを見た時はクラクラした。

おば「この子はFカップ。このくらいになると、まずお客さんは胸を先に見るな」

他の場所では着られそうにない飛田仕様の衣装は、業者が各店に売り込みに来る。ちょうど業者が来ているところに居合わせたことがあるが、業者も女の子の特性を知っていて、しっかりと似合いそうな服、その子が好みそうな服をもってきていて感心した。

毬絵「あとライティングでも、女の子の見え方が全然違う」

たしかに昼より夜の方が魅力的に見えるものだ。

毬絵「化粧を派手にして、前に出ると、きれいに見える。裏に来たら、こんなんやのに(笑)」

この子は顔立ちが整っているが、裏では足を広げてタバコを吸っているタイプ。表と裏の印象が180度違う。これも技術である。

ママ「目をくっきりさせるメイクをせな、あそこに出ると、目がぼやける。おばちゃんは、そういうところまで見る。隣の店の子が白い服を着ているとしますやんか。同じ白だと、比べられますやんか。どうも今日はよくないとなったら、その時は服を着替えさせますもん。隣を見て、あっちが白なら、こっちは黒とか、赤とか」

このママは、おばちゃんをやって金を貯めてママになった人物で、自身、接客をしていたことはない。飛田のママでは少数派かもしれないが、女の子とは違うところに目が届く。

 

 

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