会って二十分で「結婚して」—飛田の女たち 2-2[ビバノン循環湯 165] (松沢呉一) -4,701文字-
「元彼が店にやってきた—飛田の女たち 2-1」の続きです。飛田のシステム、おばちゃんの役割等については、改めて説明をしていませんので、わかっていない方は「飛田の女たち 第一部」からお読みください。
笑顔の練習
松沢「最初はどこで苦労した?」
小雪「一番最初は、ただ座っているだけやったから、緊張しただけ。ほしたら、次は笑顔を作らなきゃいけないって言われて、どう笑ったらいいんやろって困りましたよ。最初の壁はそれでしたね」
ミミ「そうそう。“周りから見たら退くやろ”みたいな引きつった笑いしかできんかった。それで鏡をメチャ見て笑顔の練習して」
小雪「松島はずっと外詰めだから、二番手だろうが三番手だろうが、ずっと入口に並んでなきゃいけないんですよ。いつも笑顔でいるのは無理です」
松島では、その時にいる女の子が全員表で顔見せをする。これを「外詰め」と呼ぶ。対して飛田では六分、七分単位で交替していく。飛田は出ている時だけ最高の笑顔を見せておけばいいのに対して、松島ではどうしても緊張が保ちにくく、この差は客から見た時にもはっきりとわかる。
小雪「こっちの方がやりやいすけど、一人しか出ていない時はずっと一人で座ってなきゃならない。松島だったら、何人かいるから、頃合いを見て休憩できるけど、こっちだと、一人しかいない時はタバコも吸えない。自分なりにタイミングを見て、大丈夫だなと思った時にタバコを吸っているんだけど、ちょうど、プッカーって煙を吐き出したところを見られたり」
ミミ「そうそう。馴染みさんは迷わず一直線に来るじゃないですか。タバコの灰をぽんぽんてやって、ダルって顔した瞬間に、パッと来たりして」
慣れた客となら一緒にタバコを吸うのもいるのだが、素人臭さを出すために、客の前では吸わないようにしているのも多いものだ。
小雪「今までそういう人に一回も当たったことがないんだけど、この間、初めてSMの人がついたんですよ。“叩いて、ぶって”って。私はそういうタイプじゃないのに、なんで私についたかというと、タバコに火をつけた時に見られて、その顔が怖かったって(笑)」
松沢「アハハ、タバコを吸っていればM男さんがいっぱいつくかもね」
おばちゃんとのコンビネーション
松沢「最初は客と目を合わせるのも難しいって言うよね、タイミングとか」
小雪「難しい。私でもまだ無理。おばちゃんが声をかけているのに、ひょっとした時に横向いていたり」
ミミ「イヤなお客さんで上がって欲しくない時とか、あえてイヤな態度をとったり、目を合わせないようにするけど、合わせようとしても合わなかったりするやん」
松沢「女の子も自分から声をかけるのがいるよね」
小雪「うん。でも、私はかけない。おばちゃんに対して失礼だから」
声をかけるのはおばちゃんの仕事であり、女の子が声をかけるのは「おばちゃんには任せておけない」ってことになるわけだ。
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