松沢呉一のビバノン・ライフ

ビジネスじゃないからできること、やるべきこと—街を知る適切な方法・不適切な方法 3-(松沢呉一) -3,156文字-

ヘテロではどうしても埋まらない「実感」

 

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新宿二丁目講座」の街を見て歩く第一部は私がセッティングとガイドを担当したのですが、第二部は張由紀夫君も参加しての講座です。

最近相当に際どいのだけれど、なお私はヘテロですから、知識としては語れても、実感の部分までは十分には語れない。受け売りしかできないのです。

ハッテン場でセックスしたことのあるゲイと、遊ぶんだったら交番横の「角海老」になるヘテロの男は違います。

同じセックスをしていないと理解し合えないなんてことはもちろんないのですが、「街の実感」は違うし、「HIVの実感」もやっぱり違う。私はサウナ「24会館」の構造やそこでの作法までは知らんです。張君も、レズビアンの実感、バイの実感、トランスの実感まではわからんですけどね。

また、二丁目をマイノリティの理想郷としてとらえるのではなく、そこにある問題点も抽出する内容でしたから、「当事者」の視点が必要でした。趣旨によっては私だけでもいいのですが、この会については、そこまで理解して欲しい。

※宿場町であったことを偲ばせる追分だんご。ただし、創業から百年くらいのはずで、江戸時代からあったものではありません。季節で変わる暖簾がきれい(正確には年に三回だと思います。暖簾にはうるさいので、よく見ているのです。ちょうどこの年、暖簾が作り直されたはず)。

 

資料配布のルール

 

vivanon_sentenceこの時に、無料で渡せる各種の資料は皆さん持ち帰ってます。HIV関連のものが中心です。

それ以外に、その場で各自が見られるようにコピーも渡しています。半世紀以上前の雑誌のコピーや、新宿中央図書館でコピーしてきた古い地図です。

こういう学習会のような場では、著作権のあるものを無断コピーをすることはよくあることです。少人数であっても、また、営利ではなくても、学校法人の授業以外では、法的に言えばアウトですが、一定の条件のもと、容認されてよく、私自身の原稿が配布されていても文句はつけない。あくまで「その条件を満たしていれば」です。

その場合でも、最低限のルールは守るべきです。このルールは「権利者にデメリットが生じない範囲で使う」ってことかと思います。「文章に手を加えない」「出典を明記する」「できるだけ著作権が切れているもの、最初から著作権が発生していないものをコピーし、著作権があるもので、現在も出ているものは、購買につながるようにする」ってことです。最後の点は「この本は資料性が高いから買うといいよ」と勧めることでクリア。

コピー自体を販売することはどこまでもアウトであることは言うまでもありませんし、会が営利ではないことで初めてこれらの使用は容認されるべきだろうと思います。

ビジネスである観光バスが、自社で制作した資料や無料で配布していいものとして制作された資料だけでなく、無断でどっかからコピーしたものを配布することまでを容認する必然性はないでしょう。「利益が出ているんだから、使用料を払うか、自社で作れ」ってことです。

会が営利ではなくても、著作権侵害に該当する場合は文句を言われたらアウトですから、謝罪するしかなく、使用料を払えと言われたら払うしかない。それを覚悟して使用するしかないのです。

※大正時代に遊園地「新宿園」があったあたり。現在の新宿五丁目。二丁目の北側。レビューができるホールもあったのですが、わずか三年ほどで閉園し、現在は町会の名前として残るのみ。

 

ビジネスではないからできること

 

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四時間から五時間ほどそんなことをやって、そのあとは当初の予定通り、二丁目の店で飲んだり食ったりしています。全員ではないですが、深夜まで二丁目を満喫しました。

これもこの講座の重要な内容でしたし、二丁目で飲んだことのない人たちはこれも楽しみにしてました。ただ飲むだけ、食うだけなら一人でも行けますが、街を理解した上で飲み、語り合うのとは全然違う。金をちゃんと落とした方がいいですしね。

街を知るというのはそういうことでしょう。観光バス、観光ガイドはビジネス。それにも需要があり、必要性もあります。まだ今は自分で調べて、自分の足で回れますけど、もっと歳をとったら私も利用することがあるかもしれない。

こういうビジネスは、街に利益をもたらす範囲でなされていい。商店会も通常は歓迎をします。ビジネスとビジネスの相互のメリット。

住民によっては人が増えて騒がしくなることを嫌うこともあるでしょうから、時間帯等、迷惑にならない方法をとるってもんです。それでも反対があった時に「公道だから誰が通ってもいいだろ」と開き直って商売が成立しますかね。

対して、私らはビジネスではケアできないこと、表面を見て回るだけでは見えないことを見せるのが役割です。利益が出ることもありましょうし、出ていい。しかし、それが目的ではありません。

「新宿二丁目講座」の参加者は、知っている顔ぶれでしたから、そんな人はいなかったとは思うのですが、もしこの会に参加した人の中で、二丁目に関する誤解をしていたり、偏見を持っていたりした人がいたとしても、その誤解や偏見の多くは払拭されたはずです。それが私らがやる意義です。

たとえばこれが純然たるアカデミズム、あるいはマスメディアの仕事であるなら、事実を知ること、知らしめること、研究することが目的になって、結果、街にはメリットのないことをやることもあるでしょう。それにもルールがあります。ただ自分の業績や売り上げだけを追及していいってものではない。

金をとって、ただの物見遊山の見物会をやるのは、そのどれでもないのですから、ただのビジネス。であるなら、ビジネスのルールに従うべきです。街に迷惑をかけないようにする。文句が出たらしっかり対応をする。資料は許可をとり、使用料を払う等。

※地図を見ればわかりますが、新宿駅南口には渋谷区千駄ヶ谷が食い込んでます。

 

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