松沢呉一のビバノン・ライフ

「おっぱい募金」批判者の傲慢—なぜ他者の性を否定しないではいられないのか 1(松沢呉一) -3,001文字-

 

海外の文献をもっと邦訳する必要がありそう

 

vivanon_sentenceマリアンヌ・メイシー著『彼女のお仕事』の書評を読み直して、「今こそ読まれるべき本かもしれない」と思いました。

その私の思いとリンクするように、Amazonや「日本の古本屋」に出ていた古本が7冊ほど売れています。100円から200円程度の安い値段で出ているのが何冊もあったせいでもあるのですけど、あの本が出た頃よりも、ああいう内容に共感できる層が広がっているのではなかろうか。千円以下で買えるものはすべて売れましたが、そう珍しい本でもないので、そのうちまた安く出ましょうし、古本屋の店頭でも探せると思いますので、是非お読みいただきたい。

How to Tell a Naked Man What to Do: Sex Advice from a Woman Who Knows (English Edition)あのシリーズの三回目「ポルノ・リテラシーの必要性」にも書いたように、もっと翻訳本がこの国には必要。ドウォーキンやマッキノンがフェミニストであるかのような誤解をぶち壊し(結婚制度の全否定をした段階ではドウォーキンもフェミニストではあったのでしょうし、だからラディカルだったわけですけど、結局行き着いたところは宗教右派と変わらない道徳護持派、性的保守派です)、その本性を明らかにしていくべきです。

たぶん前よりはこの手のものが売れる状況になってきていると思うので、出版社はもっともっと翻訳本を出して欲しい。権威主義者、属性主義者、欧米崇拝者が多いですから、日本人で男のエロライターが書いたものより、女が書いたもの、肩書きのある人が書いたもの、アメリカやヨーロッパで出版されたものの方が納得する人が多いはずです。

本当はそこから改善をしなければならないのですけど、こういう人たちの改善は無理なので、それに乗って本を出していくしかないでしょう。

ナディーン・ストロッセンも男だと思ったバカがいたように、翻訳するなら、アホでもわかるように、もっと女っぽい名前の著者の方がいいかもね。メアリーとか、キャロルとか。どうせ中身は理解できないので、属性で判断するしかないバカフェミ、糞フェミ対策です。

ストレートにセックスワークを取り上げたものではないようですが、あの中で取り上げたキャンディダ・ロイヤルの「How to Tell a Naked Man What to Do」なんていいんじゃないかな。追悼の意味を込めての出版。キャンディダはカンジダなので、女が罹りやすいですし。AV問題の参考になりそうです。私は確実に買います。

あとはセックスワーカーの権利運動を概括したようなものも必要かと思います。これもヨーロッパではすでに何冊も出ているでしょう。

 

 

いじましい安心感を得るために他者の意思を否定できる新聞記者

 

vivanon_sentenceマリアンヌ・メイシー著『彼女のお仕事』について書いた自分の文章に触発されて、この国の呆れた人々についてもう少し書いておくとします。「なぜ他者の意思を尊重できず、口出しをしないでいられない人たちがいるのか」について、具体的に見ていきましょう。

おっぱい募金」について、朝日新聞の記者に取材された際、彼女は出演したAV女優たちが自分の意思で出ていることをどうしても認められず、「幼い頃に性暴力を受けたことがあるのではないか」と言い出しました。ぶち切れましたぜ。

「他者の内面をあなたがそうやって決めつけられるのは、あなたが性暴力の被害を受けたトラウマによるものだと私が決めつけていいのですか」と私は声を荒らげてしまいました。

「女の意思」をどうしても否定しないではいられない。世界の女は自分と同じ性的保守であると信じ切っている。「私が世界の基準」と信じられる傲慢さ。薄っぺらな見識で世界を、そして他者を解釈できると思えるほどに頭が悪い。

それでも、本人が自分の意思であると主張すると、その背景に男社会があり、その強制で動いていると見なす。それもないとわかると、会ったこともない人間にトラウマを見いだして、卑しい安堵を見つけようとする。サイテーの人間のくせしやがって、自分は他者の内面を決めつけることができる特権を得ていると錯覚しているのです。

マリアンヌ・メイシーが批判していたウェンディ・モルツときれいに重なる「神話の信奉者」です。家父長制道徳の腐った擁護者にして、自覚なき奴隷と言っていいでしょう。矯風会にでも入るといい。もう入っていたりして。

 

 

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