松沢呉一のビバノン・ライフ

あいつのチンコ、ちっちぇえの—女言葉の消滅 2-[ビバノン循環湯 181] (松沢呉一) -3,798文字-

 

街頭での調査

 

vivanon_sentence前回の座談会のあと、渋谷と原宿で、約三十人の若い女子をつかまえて話を聞いてみた。

ここでも彼女らの8割程度が「汚い言葉、乱暴な言葉遣いをしている」との自覚がないままに、世間一般に言えば「汚い言葉」「乱暴な言葉」を使っていることを確認できた。そのため、「汚い言葉、乱暴な言葉遣いをしているか否か」と本人に聞いても実情はわからず、実際にどういう言葉を使っているのかまで聞く必要がある。

例えば十六歳の二人組はこうだ。

「乱暴な言葉なんて使わないよね」

—喧嘩する時はどんな言葉を使う?

「そんなこと急に言われても出て来ないよ。“てめえ”“チクショウ”“(首を)しめるよ”“ざけんじゃねえよ”とか?」

「“バリバリむかつく”“ただじゃ、おかねえ”“調子こいてんじゃねえよ”“やばくね”ぐらいかなあ」

十分である。彼女らの片方は高校生、片方は最近中退したとのことで、ちょっとヤンキー風ではあるから、彼女らだけならまだ特殊な例とも思えるが、これが全体的な傾向であることがわかってくる。

「うちら共学だけど、けっこう女の子は汚いよ。アタシはましな方で、汚い言葉、あまり使わないよ」

「“ざけんじゃねえよ”“ハゲ、むかつく”とかは言うじゃん」(十七歳・都立高校二人組)

使っている自分の言葉が汚いかどうかもわからない状態。わからないから使うのだろうし。

「急に思い出せないよ。“むかつく”なんて言わないし。でも“死ね”はよく言う」(十六歳・高校生)

なにがなんだか。

「ヤスケ、あんたの汚い言葉って何?」(十九歳・女子大生)

ヤスケというのはすぐ近くにいた友だちのあだ名である。あだ名までが男性化。

「あんた」という言葉は地域差が相当にありそうで、地域によっては性別、世代を問わず、当たり前に使う言葉だろうが、東京においての「あんた」は下町のオバハンが自分の夫を呼ぶ時に使うくらいだったんじゃなかろうか。しかし、今や渋谷、原宿にいる女の子同士が普通に「あんた」と呼び合う(私の同世代の女たちも、夫でも恋人でもない私を「あんた」とよく呼ぶから、私自身、これに違和感はない)。

 

 

身近な人とは喧嘩をしない傾向

 

vivanon_sentenceなかなかの美人さんである二十歳の大学生は「どれが汚い言葉かわかんないですよ」と言いながら、「ケンカすると、母には“あんた”、父には“ジジイ”とかって言いますね。でも、特別、言葉が汚い方だとは思わないですよ」とのことである。私には丁寧語をちゃんと使っているだけ、マシではある。

彼女以外でも、親とケンカすると「足、短けえんだよ」「腹出てんだよ」「中年」「甲斐性なし」「くそジジイ」「くそババア」「はげオヤジ」「死ね」といった言葉が出てくるとほとんどの女性らが口を揃えた。親が中年なのは当たり前なんだがなあ。

「父親を“サル”とかって言いますね。向こうも“トド”とかって言うし」(二一歳・会社員)

彼女には悪いが、彼女の体型を見て納得してしまった。

また、中学生のグループの一人が「親を“おまえ”呼ばわりして怒られたことがある」と言った横から「マジかよ」と合いの手が入ったのも笑った。どいつもこいつも。

しかし、姉妹(兄妹、姉弟)の間や学校でのケンカはしないとほぼ全員が答えたのは意外だった。 「ほら、テレビのチャンネル争いとかさ」と私が言ったら、「テレビのチャンネルを取り合う時代じゃないじゃん」と十八歳の高校生にバカにされた。個室があって各部屋にテレビがある時代である。

そのくせ、「パーティで、お立ち台に上がって踊ってたら、なーんか幅とっているヤツがいて、テンション高くなって胸倉つかんで“表出ろよ”って。そういうのはよくある」(十八歳・高校生)、「つきあってる彼に“ぶっ殺してやる”って言ったら、ビビッてましたね」(十九歳・高校生)、「道を歩いていて気に入らないのがいると、“刺しちゃうよ”とかって言うよね」(十九歳・大学生)という具合に、人間関係の距離が出るとともに凶暴になる。

中学生の集団(年齢はバラバラ)は「男の方が外でもケンカもしなくなっているんじゃないの」「男同士は喧嘩しないね」「口喧嘩はしても殴り合いまではない」「アタシは口より先に手がでる」「男の方が辛抱できんだよ」と口々に言っていた。

 

 

next_vivanon

(残り 2144文字/全文: 3918文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ